tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『P.S.アイラブユー』谷川史子

P.S.アイラブユー (クイーンズコミックス)

P.S.アイラブユー (クイーンズコミックス)


ドイツ語専門の翻訳家として働く伊勢一三子・33歳独身。仕事に生きがいを感じて没頭する日々の中、図書館でひょんなことから出会った少年・草市とひとときを過ごすようになり…。表題作ほか、彗星が地球に近づくその日の人々を描いた読切りシリーズを収録。

さっすが谷川史子さん。
女子の心を本当によく分かってらっしゃいます。
谷川さんのマンガを読んでいると、一作品に1回は絶対に「ああ、この気持ち分かる分かる」って思うんだよね。


この単行本にはいくつかの短編が収録されていますが、なんてったって表題作の「P.S.アイラブユー」がいい。
仕事に熱中する独身の一三子が息抜きに出かけた図書館で出逢ったのは小学3年生の男の子、草市。
子どもが苦手だったはずの一三子はいつしか草市のペースに巻き込まれ、その後も何度か会ううちにすっかりお友達になります。
でも、お別れしなくてはならない日がやってきて…。
無邪気な子どもが登場する話のせいか、なんだかほのぼのしていて温かい空気が心地よい作品です。
それでいて、自分の仕事に誇りと情熱を持ち、この仕事が大好きだと断言できる一三子がとてもかっこいい。
性別に関係なく、仕事に打ち込んでいる人の姿はとてもかっこいいものですね。


でも、他人から見ればかっこよく見えるそんな一三子も、恋人のプロポーズを断って別れた過去があり、もう一生ひとりかも…という不安も抱えています。
草市のお母さんを見て、うらやむ気持ちもあったりして。
どんな道を選んでも、どんな立場に立っても、きっと自分とは全く違う道や立場を選んだ人をうらやむ気持ちはゼロにはならないのでしょう。
どんな人生にも「足りない」と感じられる部分はきっとある。
だから、「わたし」を信じて「わたし」が選んだ道で精一杯生きていく。
一三子のかっこよさは何よりも自分が選んだ道で着実に前へと進んでいるというところにあるのだと思います。
自分が選んだ道を自分の足で、しっかり歩いていかなきゃな。
感動するとともに元気をもらえた作品でした。