tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『シャドウ』道尾秀介

シャドウ (創元推理文庫)

シャドウ (創元推理文庫)


人は、死んだらどうなるの?―いなくなって、それだけなの―。その会話から三年後、凰介の母は病死した。父と二人だけの生活が始まって数日後、幼馴染みの母親が自殺したのを皮切りに、次々と不幸が…。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?いま最も注目される俊英が放つ、巧緻に描かれた傑作。本格ミステリ大賞受賞作。

やっぱり道尾秀介さんの作品は感想が書きにくい、というのが感想です(笑)
作品の一番よかったところに触れようとするとネタバレになってしまうのですから。
でも今回の作品は主人公の少年の成長物語でもあるので、多少感想も書きやすいかな。


病気で母を亡くした小学5年生の少年、凰介(おうすけ)。
父親同士、母親同士がそれぞれ学生時代の同級生という幼なじみの少女・亜紀とは家族ぐるみの付き合いをしている。
しかし、亜紀の母親が自殺し、凰介の父親や亜紀も様子がおかしくなり始める。
凰介の周りで一体何が起こっているのか…。
読み進めるうちにどんどん謎が増えていき、どう解釈していいのかよく分からない場面も多く、凰介だけでなく読者も不安感が高まっていきます。
なんとも言えない独特の不気味な雰囲気が漂っているのはいつもの道尾作品だなぁという感じがしますが、ホラーが苦手な私でもこの気味の悪さはそれほど不快ではなく、不思議に惹きつけられるような気がしました。
そうした先にたどり着いた真相にはなるほどと思わされました。
道尾さんの話の進め方のうまさ、騙しのテクニック、伏線の妙がうまく絡まりあって、非常にきれいにまとまったミステリ作品であるという印象を受けました。
全ての謎がきれいに解かれるさまを見るのはやはり気持ちがいいものです。
すっきりとした謎解きに、それまで高まるばかりだった不安感もきれいに解消し、とても気持ちよく読み終えることができました。


気持ちよさは謎解きの部分だけではありません。
物語冒頭で母を失い、非常に弱々しく頼りなげな子どもという印象が強かった凰介の、終盤の成長ぶりは目を見張るものがありました。
序盤ではおねしょをするくらい子どもっぽかったのに、ラストでは事件の真相の一部に自分の力でたどり着き、父親に守られるだけではなく父親を支えるほどのたくましさを発揮します。
幼なじみの亜紀に対して、「亜紀ちゃん」とそれまでのように名前で呼ぶことが気恥ずかしいといった描写も、この年齢の男の子らしくていいなと思いましたが、最後の方には「男の子」から「大人の男」への第一歩を踏み出していて、今後の亜紀との関係も読んでみたいと思わされました。
子どもが成長していく姿はやはり清々しく、気持ちのよいものですね。
また、道尾さんは「ミステリは人間を描くのに適した形式だ」と言われているそうなのですが、確かに凰介・亜紀・凰介の父の洋一郎のそれぞれの心理描写が丁寧になされていて、ミステリにありがちな「探偵役」「ワトソン役」などの物語上の役割の性質は薄く、あくまでも普通の子どもや父親として描かれているところがとてもいいなと思いました。


謎解きも納得の行くもので、非常に気持ちよく読み終えることができ、今まで読んだ道尾作品の中ではこれがベストです。
☆5つ。