tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『図書館の神様』瀬尾まいこ

図書館の神様 (ちくま文庫)

図書館の神様 (ちくま文庫)


主人公は、清く正しい青春をバレーボールに捧げてきた、その名も清(きよ)。あることがきっかけで、夢をあきらめて教師になるべく、海の見える中学校に赴任する(教員採用試験に受かっておらず、臨時雇いではあるが)。そこで、思いがけず文芸部の顧問となった清に訪れた変化とは……。「卵の緒」で坊っちゃん文学賞を受賞した瀬尾まいこの、デビュー第2作。大幅にファンを増やした評判作の、待望の文庫化。単行本未収録の幻の短篇「雲行き」も収録。

あ、この作品って第2作目なのか…。
文庫化までずいぶんと時間がかかりましたねぇ。
もっと早く読みたかったです。


いやぁ、瀬尾さんらしさにあふれた作品ですね。
主人公の清は大学を出たばかりの高校の講師なのですが、これが先生としてはどうなの?と思ってしまうような人物です。
国語の先生なのに国語が好きなわけではないし読書もしない、そもそも教員になりたくてなったわけでもない、万事にあまりやる気がなくて、学生時代に通っていたお菓子作り教室の先生と不倫中。
とても褒められた先生ではありません。
でも実は、中学と高校時代はバレーボールに打ち込み、その名の通り清く正しく生きてきたのです。
ところが高校時代に起こったある事件をきっかけにバレーボールを辞めざるを得なくなり、体育大に進んでバレーを続けるという夢を捨て、なんとなく私大の文学部を選んだところから、人生は思い描いていたものとは全く違う方向へ進み始めます。
講師として就職した高校でも、バレー部の顧問になりたいと願いながらそれは叶わず、部員が1人しかいないとても地味な文芸部の顧問になってしまいます。
最初はやる気のなかった文芸部の顧問ですが、たった一人の部員との交流から、やがて文学に対する興味も芽生えてきて、次第に先生らしくなっていきます。


そう、この作品は、一人の先生の卵が、一人前の教師へと成長していく姿を描いた物語なのです。
少しずつ少しずつ変化を見せ、成長していく清の姿には、伸び盛りで青春真っ只中の高校生にも負けない爽やかさがありました。
教師だって最初は新人。
人間として未熟な部分もたくさんあります。
でも、生徒に教え、教えられることでどんどん成長して教師になっていくのです。
たった一人の文芸部員・垣内君がなかなかいい味を出していて、清とのやり取りもコミカルで楽しいです。
瀬尾まいこさんの描く人間関係は、いつも淡白なようでいて温かみがあるところがいいなぁと思います。
微妙な距離のとり方がうまいんですね。
突き放すでもなく、踏み込みすぎるでもなく。
清と、周りの人物たちとの関係も、とても心地のよい距離感を持って描かれています。
だからベタベタと暑苦しい感じもしないし、冷淡な感じを受けることもなく、ちょうどいい具合で気持ちよく読めるのです。
ラストはなかなか感動的で、ジーンとさせられました。
瀬尾さんの作品ではこの作品とデビュー作の『卵の緒』がダントツで好きだなぁ。
読後感がとてもよかったです。


それにしても、教員採用試験の場面が出てくる小説なんてほかにはあまりないんじゃないかなぁ。
瀬尾さんの実体験に基づいていると思われる物語は、非常に説得力がありました。
☆5つ。