tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『レインツリーの国』有川浩

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)


きっかけは「忘れられない本」。そこから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内時間は流れが速い。僕は、あっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女には、そう主張せざるを得ない、ある理由があった――。

有川浩さんお得意の、甘甘〜なラブコメ小説。
考えてみれば本格的に恋愛を話の中心に据えた有川さんの作品を読むのって、初めてかなぁ。
『空の中』も『海の底』も、もちろんラブコメ部分は十分楽しんだけど、この2作はSFとしての面白さも大きいですもんね。


何と言ってもこの作品はシチュエーションが燃える(笑)
昔読んだ印象深い本の感想を載せたサイトに行き着いた男性が、そのサイトの管理人である女性に感想のメールを送る。
そこから始まる楽しいメールのやり取り。
そして急速に膨れ上がっていく恋心…。
まぁ現実的にはそんな恋愛が自分の身に起こるとは思えないけれど(笑)、それでもそんな経験してみたいとは思いますね。
と言うか本好きの人はみんな「自分と本の趣味が合う人とめぐり逢いたい、その人が恋人になってくれたら最高」とは多かれ少なかれ思うのではないでしょうか。
その趣味がマイナー、あるいはマニアックであればあるほど、現実の生活の中ではなかなか趣味の合う人と出会うのは難しいけれど、ネットを介してならわりと出会いやすかったりしますから。
読書という趣味に限ったことではないでしょうけれどもね。
メールだけのやり取りだった人と初めて実際に顔を合わせるドキドキ感がリアルに描かれていて、思わず主人公と一緒にドキドキしてしまいました。
本名も住所も知らない、ホームページとメールだけで繋がった細い細い糸。
その糸を少しずつ手繰り寄せて、実際に会ってみたら、やっぱり想像とは違っていたこともあって。
それでもお互いに率直な気持ちをさらけ出して、ちょっと乱暴な言葉なんかもぶつけ合って、押したり引いたりしながらお互いのことをより深く知り、気持ちを確かめ合っていく。
うん、そうだよね、恋愛関係ってそんな風にして育てていくものだよね、と、そんな当たり前のことを再確認したりしました。


ライトノベル出身の作家さんだけに軽めで読みやすい文体で、重くなりすぎない程度に考えさせられるテーマを含んだ物語をサラリと読ませてくれます。
有川さんの作品はその辺りのさじ加減が絶妙でいつも感心させられます。
甘いセリフやシチュエーションにむずむずニヤニヤ(笑)しながら読み終えた後は、なんだか自分まで幸せな気持ちになっているから不思議です。

他人から見たらただのバカップルだろう。人の往来する大きな駅でこんな。
でもバカップルみたいなことをしたいときだってあるのだし、どうせそんな奴らのことなんかみんな家に帰れば忘れるのだから、たまにはこんなことをしたっていい。


213ページ 10〜12行目

私も実際に見かけたら「ただのバカップル」だと思うでしょう。
でもこの作品の主人公カップルのことは許せてしまう。
むしろバカップル万歳!!…なんて思ったりして。
そう思わせるところが有川さんのうまさなのでしょうね。
ずっとこんな甘い作品ばかり読んでいたら嫌気が差すかもしれないけれど、時々読むのはいいもんです。
☆4つ。