- 作者: 道尾秀介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/06/27
- メディア: 文庫
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俺は私立探偵。ちょっとした特技のため、この業界では有名人だ。その秘密は追々分かってくるだろうが、「音」に関することだ、とだけ言っておこう。今はある産業スパイについての仕事をしている。地味だが報酬が破格なのだ。楽勝な仕事だったはずが―。気付けば俺は、とんでもない現場を「目撃」してしまっていた。
う〜ん、困った。
この本については、何か書こうとすると途端にネタバレになってしまう…。
『向日葵の咲かない夏』もそうだったし、道尾秀介さんの作品はネタバレなしで語るのが難しいですね。
というわけで簡潔な感想になってしまいますが。
読者に対するミスディレクションの仕掛け方がやっぱりうまいですね。
思い込みとは怖いもので、気付いたら騙されている。
こういうタイプのミステリは好きなのですが、道尾さんの作品は仕掛け方はうまいのに、驚かせ方がいまひとつのように思います。
全身に電流が走ったかのような驚きが感じられず、気付いたら意外な事実が目の前にあって、なんだか感覚があまりついていけないと言うか…。
うまく言えませんが、1行読んだ瞬間に衝撃が走るという分かりやすさがあるほうが、個人的には好きです。
確か『向日葵の咲かない夏』も同じ感想を持ったんだったっけ…。
仕掛け方はうまいのでもったいない感じがしますが、もう少し他の作品も読んでみたいです。
文体がライトなハードボイルドタッチで読みやすいのはよかったです。
なんとなく伊坂幸太郎作品っぽい印象を受けました。
タイトルになっている「片眼の猿」の寓話についてはいろいろと考えさせられますね。
もっとも、原典の「今昔物語」にある「999匹の片目の猿」の話は、この作品での使われ方とはちょっと違うみたいですが。
「みにくいアヒルの子」と似たような話ですが、何が差別や偏見なのかの基準は難しいなと思います。
「みにくいアヒルの子」だって、うがった見方なのかもしれませんが、アヒルよりも白鳥の方が優れている(美しい)という人間の勝手な偏見に基づいた話のようにも思えますし…。
「片目の猿」も同様に、目は2つあるのが「普通」という大前提があってこそ成り立つ話ですもんね。
もちろんこの作品で作者が伝えようとしている、「目に見えるものばかりを重要視するな」というメッセージは十分に理解できますが。
軽い文体の中に重いテーマと騙しのテクニックが隠された、読み応えある作品でした。
☆4つ。