tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『この世界の片隅に(上)』こうの史代

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)


平成の名作・ロングセラー「夕凪の街 桜の国」の第2弾ともいうべき本作。戦中の広島県の軍都、呉を舞台にした家族ドラマ。主人公、すずは広島市から呉へ嫁ぎ、新しい家族、新しい街、新しい世界に戸惑う。しかし、一日一日を確かに健気に生きていく…。

名作『夕凪の街 桜の国』の作者・こうの史代さんが、また新たな視点から戦争を描いてくれました。
昭和19年に広島から呉へと嫁いだすずという一人の女性を中心に、戦中、そして終戦直後の一般市民の暮らしを素朴なタッチで生き生きと描いた作品です。
戦争中の話と聞くと、どんなに暗く悲劇的なのかとちょっと構えてしまいますが、この作品に関して言えばそういうイメージはほとんどありません。
むしろ明るくユーモアにあふれ、ほのぼのとしています。


主人公のすずはちょっとぼーっとしたところがあって、おっちょこちょい。
知らない街の、知らない人のところへ請われて嫁ぎますが、慣れない環境や意地悪なお義姉さんの棘のある言動にもめげず、健気にせっせと働きます。
子どもの頃から絵を描くのが得意で、しょっちゅういろんな絵を描いているすず。
そんなすずがとても可愛らしくて、ホッと心が和みます。


すずもいいけど、私のお気に入りキャラクターは断然すずの旦那さんの周作さん。
子どもの頃に一度会っただけ(なのですずの方は周作を覚えていなかった)のすずを苦労して探し出してお嫁さんに迎えて。
祝言の日、ずっと固くこぶしを握って下を向いたまま、せっかくのご馳走も食べられずに、夜になってすずと2人きりになってようやく素の表情を見せる周作さん…素敵♪(笑)
すずには小学校の同級生だった水原という淡い初恋の相手がいたのだけれど、初恋の相手とは結ばれなくても、知らない人といきなり結婚することになっても、こんなに想われて、求められるってやっぱり女として幸せなことですよねぇ。
恋愛が今ほど自由ではなかった時代だからこその純愛なのかもしれないけれど。
この上巻ラストの新婚さんらしいラブラブなシーンには、こちらまで幸せな気分になりました。


また、戦時中の生活の様子もしっかり描かれていて、教科書では学ぶことのできなかった当時のリアルな暮らしを知ることができました。
配給、隣組(「ドリフの大爆笑」の元歌は「隣組」っていう歌だったんですね!)、食料が乏しい中での節約料理の数々…。
不便なことも、つらいこともたくさんあったのはもちろんだろうけど、そんな生活の中でもきっとささやかな幸せや喜びを見出して生きていた人々もたくさんいたはずですよね。
暗いばかりではない戦時中の暮らしぶりは、今までそうしたことを知る機会がなかった私にとってはとても興味深く、想像以上に楽しく読めました。
でも、戦争の色はだんだん濃くなっていく。
この作品の刊行を知った時、長編になるのならまとめて一気に読みたいと思い、完結を待ってから全3巻まとめて購入しました。
でも、上巻を読み終わっても、なかなか次の中巻に手が伸びませんでした。
この先に描かれるであろうものが怖かったから。
上巻はまだほのぼのと幸せな空気が漂っていたから余計に、この可愛い新婚さんたちの生活が壊されていくのが怖くて。
中巻の感想に続きます。




♪本日のタイトル:絢香×コブクロ「あなたと」より