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『エンド・ゲーム 常野物語』恩田陸

エンド・ゲーム 常野物語 (常野物語) (集英社文庫)

エンド・ゲーム 常野物語 (常野物語) (集英社文庫)


『あれ』と呼んでいる謎の存在と闘い続けてきた拝島時子。『裏返さ』なければ、『裏返され』てしまう。『遠目』『つむじ足』など特殊な能力をもつ常野一族の中でも最強といわれた父は、遠い昔に失踪した。そして今、母が倒れた。ひとり残された時子は、絶縁していた一族と接触する。親切な言葉をかける老婦人は味方なのか?『洗濯屋』と呼ばれる男の正体は?緊迫感溢れる常野物語シリーズ第3弾。

『光の帝国』『蒲公英草紙』に続く「常野物語」シリーズ3作目。
このシリーズ、日本を舞台にした不思議なファンタジーなのですが、とにかく恩田ワールド全開。
この『エンド・ゲーム』にも「裏返す」だの「裏返される」だの「洗濯する」だの、具体的に何がどうなるのかよく分からない独自の「用語」が頻繁に出てきます。
物語を読み進めてもこれらの言葉の具体的な意味は分かったような、分からないような…というあいまいな感じなので、読者がそれぞれの想像力で補うことが求められる作品だと思います。
そんなちょっと分かりにくい世界観についていけるかどうかで、この作品の好き嫌いが分かれるような気がします。
私自身はと言うと、よく分からない部分はありつつも、作品の雰囲気はそれなりに楽しめました。


主人公の拝島瑛子・時子の親子は、1作目『光の帝国』に収められているある短編の主人公として登場しています。
一部の人が無機質で異様なもの(拝島親子は「あれ」と呼ぶ)に見えるという特殊なちからを持ったこの親子の、その後の「あれ」との闘いを描いた作品ですが、「あれ」以外にも、同じ常野一族の謎の老婆や、強力な力を持つ「洗濯屋」の男など、怪しげな人物が次々に登場し、一体誰が味方で誰が敵なのか分からない展開はサスペンスに満ちていてハラハラドキドキさせられました。
前作『蒲公英草紙』はラストは悲劇的であったものの全編を通して見れば、暖かい光に満ちた、ほのぼのとした物語でした。
それに反して今作は非常にダーク。
常野一族の闇の部分を描いた作品と言えるでしょう。
常野一族は非常に知的で穏やかな人々である、という描写が今まではなされてきましたが、『エンド・ゲーム』では拝島親子も「洗濯屋」も、常野一族でありながらエゴも欲望もある普通の人間として描かれています。
そのため少しドロドロした展開で、グロテスクな描写もあるので、抵抗を感じる人もいるかもしれません。
ですが私としては、2作目までは「理想的な人たち」という印象だった常野一族が急に身近になったように思いました。
常野一族の長い歴史の中では、一族から離れ、普通の人間に近い生き方をし、やがて能力を失い淘汰されていった人々がいてもおかしくないと思えました。


ちょっと好みは分かれるかもしれませんが、恩田陸さんの描くダークな物語が嫌いでないならばおすすめできる作品です。
作者のあとがきによると、まだまだ「常野物語」は続くとのことなので、今後の展開も期待して待ちたいと思います。
☆4つ。