tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『強運の持ち主』瀬尾まいこ

強運の持ち主 (文春文庫)

強運の持ち主 (文春文庫)


元OLが営業の仕事で鍛えた話術を活かし、ルイーズ吉田という名前の占い師に転身。ショッピングセンターの片隅で、悩みを抱える人の背中を押す。父と母のどちらを選ぶべき?という小学生男子や、占いが何度外れても訪れる女子高生、物事のおしまいが見えるという青年…。じんわり優しく温かい著者の世界が詰まった一冊。

瀬尾まいこさんらしい、ほのぼのと優しい雰囲気の連作短編集。
日常の謎ミステリ風味で、とても楽しめました。


主人公は営業職で培った話術を武器に占い師に転職した女性。
ある日恋人と一緒に自分の元に占いにやってきた男性が、どんな占いにおいても最高の運勢を示す「強運の持ち主」であることに気付き、あの手この手で彼女と別れさせ、現在その彼と同棲中。
そんなちょっと強引なところもある占い師・ルイーズ吉田のところに訪れるさまざまな占い客を描いた物語です。
占い師という職業って一体どんなものだろう…。
占い師そのものが謎に包まれた存在のような気がしますが、この作品の主人公・ルイーズ吉田は、占いはけっこういい加減だったり、普段人の悩みの相談に乗っているわりには自分のこととなると不安だらけだったりと、なんだか妙に人間くさいキャラクターです。
いや、でも、もちろんそうですよね。
占い師だってみんな人間。
人間なら不安も悩みもあって当然で、他人のこととなると無責任にいろいろ言えても、自分のことには必要以上に敏感になってしまったりするものなのでしょう。
占い方法はちょっといい加減なルイーズ吉田ですが、お客さんの様子を見てその人が一番必要としているアドバイスを与えることができる彼女は、きっと占い師に向いている人なのだと思います。
本文中にもあるように、占いは「その人がよりよくなれるように、踏みとどまってる足を進められるように、ちょっと背中を押すだけ」のもの。
カウンセラーに近いような役割で、難しいこともたくさんあるだろうけどなかなか面白い職業だななんて思いました。


気になるのはやっぱり、この本のタイトルにもなっている「強運の持ち主」である、ルイーズ吉田の同棲中の恋人で、市役所に勤める通彦ですね。
彼は、どんな占い方法で占っても最高の結果が出るという「強運の持ち主」でありながら、休日は寝てばかりいて、変な組み合わせの料理が趣味というぼーっとした風貌の冴えない男。
でも優しそうだしルイーズともそれなりに仲良くうまくいっていて、案外いい男なんじゃないの、と思わせるところが瀬尾さんらしいというか何と言うか。
妙にいい味を出している通彦とルイーズの関係が、大切なことを教えてくれる気がします。
どんな強運の持ち主だってあまりその強運を発揮できずにいることもある。
逆に一見人生がうまく行っているように見えても、悪運の持ち主だっている。
でも、誰だってどんな時だって、周りの人たちの力を借りて、支えあっていくことで道は開ける。
そんなメッセージにほっこりした気分になりました。
☆4つ。