tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン』小路幸也

シー・ラブズ・ユー (2) 東京バンドワゴン (集英社文庫)

シー・ラブズ・ユー (2) 東京バンドワゴン (集英社文庫)


東京、下町の老舗古本屋「東京バンドワゴン」。営む堀田家は今は珍しき8人の大家族。伝説ロッカー我南人60歳を筆頭にひと癖もふた癖もある堀田家の面々は、ご近所さんとともに、またまた、なぞの事件に巻き込まれる。赤ちゃん置き去り騒動、自分で売った本を1冊ずつ買い戻すおじさん、幽霊を見る小学生などなど…。さて、今回も「万事解決」となるか?ホームドラマ小説の決定版、第2弾。

『愚行録』があまりにも後味悪かったので(いや、作品としてはレベル高いし面白かったですよ?)、次は読後感がよいものを…と選んだのがこの作品。
東京の下町に暮らす大家族を描いた『東京バンドワゴン』の続編です。


明治時代から続く老舗の古本屋兼カフェの「東京バンドワゴン」。
今時珍しい4世代8人の大家族・堀田家がワイワイ賑やかに営むこの店では、さまざまな不思議な事件が起こります。
そのたびに堀田家は家訓「文化文明に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決」に従って、謎を解くべく奮闘します。
一応「日常の謎」ミステリの体裁をとってはいますが、ミステリ度は低め。
けれども、昭和のホームドラマ風の賑やかな大家族に訪れるさまざまな出来事や、個性豊かな登場人物たちの言動が面白くて、読んでいてとてもあたたかくほのぼのとした気持ちになれる作品です。
語り手はすでに他界したおばあちゃんの幽霊なんですが、ホラーな感じは全くしなくて、優しく上品な感じのする幽霊でなんだかとってもいいんです。
大家族がちゃぶ台を囲んで食事しながらあれこれしゃべっている場面もとても楽しいし、家族だけではなく近所の人々との交流にも心が温まるようなやり取りがたくさんあります。
登場人物がかなり多いのに、キャラクターの書き分けがきちんとできていて、読んでいて混乱することがほとんどないというのもすごいところです。
昔懐かしいテレビのホームドラマを意識した作品なので、実際にテレビドラマ化したらこの人物はあの俳優さんかな、なんてキャスティングを想像しながら読むという楽しみもあります。


もう、なんて言うかな、理屈抜きで大好きですね、このシリーズ。
読んでいてとても気持ちがいいから。
後味の悪い作品を読んだ後だから…というわけでもないでしょうが、前作よりもこの2作目の方がよかったです。
特に夏の章、「幽霊の正体見たり夏休み」にはほろりとさせられました。
全体的にこの『シー・ラブズ・ユー』は幸せな雰囲気があふれていたのがよかったです。
家族と言ってもいつまでもずっと一緒にいられるわけじゃなく、別れもいつかは訪れる。
その一方で、また新たな出会いもあって、家族が増えていく喜びも必ずある。
家族っていいな、と自然に思わせてくれるのです。
人情味あふれる物語で、読み終わったらなんだか自分も「いい人」になってるんじゃないかと錯覚しそうな、心を浄化してくれる作品。
嫌味なくそんなあたたかい世界観を構築することに成功している小説って、ありそうで意外にそれほど多くはないんじゃないかな。
本当に続編が楽しみなシリーズなので、できるだけ長く続けてくれるといいなぁと思います。
2作目のこの作品のラストでも次につながりそうな「種」をしっかり蒔いてくれていることですし、私の期待も裏切られることはなさそうでうれしい限りです。
集英社さん、3作目『スタンド・バイ・ミー』もぜひ早めに文庫化お願いしまーす!(笑)
☆5つ。