tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『夢はトリノをかけめぐる』東野圭吾

夢はトリノをかけめぐる (光文社文庫)

夢はトリノをかけめぐる (光文社文庫)


直木賞授賞パーティの翌日、受賞作家は成田にいた。隣には何故か、人間に化けた作家の愛猫・夢吉が…。彼らが向かったのはイタリア・トリノ。まさに冬季オリンピックが開かれているその地だ。指さし会話で国際交流をしながら、驚きと感動に満ちた観戦旅行が始まった!冬季スポーツとオリンピックをこよなく愛する著者が描く、全く新しいオリンピック観戦記。

東野圭吾さんが直木賞受賞直後に出かけたトリノオリンピックの観戦記を、「エッセイは苦手だから」という理由により飼い猫・夢吉を主人公にした小説仕立てにした作品。
フィクションなんだかノンフィクションなんだか悩むところですが…書き下ろし短編小説もついてることだからフィクションの枠に入れておこうかな。
夢吉と「オッサン」こと東野さん、そして同行の編集者「黒衣君」との掛け合いが面白く、冬季スポーツの薀蓄がいっぱいでありながら気楽に読める作品でした。


トリノオリンピックって、振り返ってみると「いろいろ騒いでたわりには結局メダル1個しか取れなかった」という微妙な位置づけのオリンピックでしたよねぇ…。
私はそれほど冬季スポーツに興味もなく、ルールも知らない競技が多いので、時差があることも災いしてあまり真剣に見ていませんでした。
それこそ荒川静香さんくらいですねぇ。
他にはカーリングが注目を浴びたりもしましたっけ?
…とまぁ私はこの程度で、たぶんこれが一般的日本人のトリノオリンピックの記憶だと思うのですが、東野さんはずいぶん思い入れたっぷりに人気競技からマイナー競技まで、さまざまな競技を観戦して来られたようです。
ご自分がスノーボード好きだからというのももちろんあるのでしょうが、日本で冬季スポーツが盛り上がらないことを心から案じていることが伝わってきました。
競技人口が少ない→オリンピックで好成績が出せない→話題にならない→競技人口が増えないという無限の悪循環に陥ってしまっている冬季スポーツが多いことを嘆いておられます。
ただ、国がもっと本腰を入れて強化策に取り組むべきだという意見も分かるのですが、どんなマイナースポーツでも状況は似たり寄ったりでしょうし、国が特定のスポーツを特別扱いするのはどうかなぁと個人的には思います。
私のように雪の降らない地域に住んでいる者にとっては、マイナーな冬季スポーツに触れる機会などほとんどありえないわけで、まずは認知を高めるための地道な努力が必要ではないかと思いました。


それでも、冬季スポーツが「自然に触れるよい機会になる」という東野さんの意見にはなるほどその通りだと納得しました。
東野さんも大阪出身ですから雪とは縁遠かったわけですが、スノーボードを始めたことによって雪という自然現象を意識するようになったと書かれています。
雪国に住んでいないと、テレビで大雪のニュースを見ても「大変そうだなぁ」とどうしても他人事で、なかなか自分のこととして雪を考えることはできません。
でも、スキーやスノボをやっていれば、雪の量やその質なども気になるでしょうし、自然と冬の天気図も真剣に見るようになるでしょう。
温暖化で雪が減ったら大変だと思えば自然に環境問題にも関心を持つのだろうなと、おまけの書き下ろし短編を読んで思いました。


トリノの各競技会場の急ごしらえぶりや、酷いトイレ事情など、トリノオリンピックに実際行って来た人ならではの裏話も興味深かったです。
あまり頭を使わずに気軽に読めるエッセイ風小説…いや小説風エッセイです。
☆3つ。




♪本日のタイトル:広瀬香美 「ゲレンデがとけるほど恋したい」より