tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ドリームバスター 1』宮部みゆき

ドリームバスター〈1〉 (TOKUMA NOVELS Edge)

ドリームバスター〈1〉 (TOKUMA NOVELS Edge)


燃え上がる火。焼け落ちそうな家。その中で、へんてこなダンスを踊る黒い人影…。悪夢に悩まされる道子とその幼い娘・真由は、夢の中で、奇妙な少年に助けられる。西部劇のガンマンに似た格好、背中に青竜刀を背負い、額には真っ赤なハチマキ。彼の名は、シェン。人の夢の中に逃げ込んだ凶悪犯の意識を退治する賞金稼ぎ、“ドリームバスター”であった…。壮大な物語のプロローグ「ジャック・イン」とシェンたちの住む惑星“テーラ”の姿が明らかになるエピソード「ファースト・コンタクト」を収録。大人気アクション・ファンタジー巨篇。

宮部みゆきさんのオリジナルファンタジーシリーズ「ドリームバスター」の第1巻がようやくノベルス落ちしました。
実は3巻を単行本で(宮部さんのサイン入りで!)持ってるんですが、シリーズものは1巻から順に読まないと意味がないし、単行本が古本で見つかれば買おう…と思っていたら全然見つけられないまま(まぁそんなに熱心に探していたわけでもないのですが…)今に至り、ノベルスでの刊行が始まったのでようやく読み始めることができました。


宮部さんのファンタジーといえば、『ブレイブ・ストーリー』はかなり好きです。
テレビゲームでなじみの深い剣と魔法の世界でありながら、主人公は私たちが住む現実の世界の小学生。
自らの運命を変えるために異世界での冒険に挑む少年の姿が生き生きと描かれ、ラストは涙・涙の感動の物語でもありました。
この「ドリームバスター」シリーズも現実の世界と異世界とがリンクしています。
異世界の方は、人間の意識や思考を肉体から分離するという実験が失敗し、大災厄の後に残った者たちでなんとか新しい歴史を再開した「テーラ」という星が舞台です。
この世界から「私たちの世界」へ逃げ込んで、人々の夢から夢へと渡り歩き自分の肉体を手に入れるために他人の身体を乗っ取ろうとする、意識だけの存在となった「テーラ」の凶悪犯たちを追うハンターをドリームバスターと呼び、少年シェンとその師匠のマエストロという2人のドリームバスターの活躍を描いているのがこの「ドリームバスター」シリーズ…ということです。
こうしてかいつまんで説明しようとしてもなかなか上手くいきませんね。
ファンタジーやSFはその世界の設定や特殊な「用語」についての説明を避けられない宿命にあると思いますが、この作品においても説明的な文章がかなり多いものの、そこはさすがの宮部さんの筆力で分かりやすく読みやすい文章で説明してくれています。
設定もそれほど奇抜なものではないので、ファンタジーが好きな人ならすんなり「ドリームバスター」の世界に入っていけるのではないでしょうか。


異世界と現実の世界がリンクしているため、異世界の冒険を描きつつも現実の世界での人々の心の動きもきちんと描写されているのもよいと思います。
2巻以降どんな展開になるのか分かりませんが、この1巻に収録されている2話ではどちらも家族の絆がテーマとなっています。
家族を描かせるとやっぱり宮部さんは上手いですね。
何気ない一文にじわりと感動させられたりします。
そして、その「家族」というテーマが、シェンの過去につながる伏線にもなっているようで、これまた宮部さんならではの構成の上手さではないかと思います。
ドリームバスター」シリーズは全7巻になる予定、とどこかで宮部さんが言われていたような気がしますが、シェンの生い立ちやマエストロとの出会いなどの、1巻ではあまり深く語られなかった部分がこの先どのような形でストーリーに関わってくるのか楽しみです。
この1巻は序章の印象が強く、アクションシーンも少なくてちょっと物足りない感じがしました。
ですが、重い過去を背負っていながらあまり暗い部分がないシェンのキャラクターには好感が持てますし、マエストロもなかなか味わいのあるキャラクターです。
お楽しみはまだまだこれから…ということで、次巻以降を待っていたいと思います。
☆4つ。