tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ガール』奥田英朗

ガール (講談社文庫)

ガール (講談社文庫)


わたし、まだオッケーかな。ガールでいることを、そろそろやめたほうがいいのかな。滝川由紀子、32歳。仕事も順調、おしゃれも楽しい。でも、ふとした時に、ブルーになっちゃう(表題作)。ほか、働く女子の気持ちをありえないほど描き込み、話題騒然となった短編集。あなたと彼女のことが、よくわかります。

いや〜、これはもう、上記の惹句の通りですね。
「働く女子の気持ちをありえないほど」リアルに描いた作品です。
奥田英朗さんには30代OLのお友達がいっぱいいらっしゃったりするのでしょうか。
「女子」という言葉を使っていいものかそろそろ悩ましくなってきた中途半端なお年頃、それが30代女子。
この短編集には、キャリアウーマン、シングルマザー、DINKSなど、立場はさまざまな30代の働く女性たちの職場での悩みやらファッションやら会話やら恋愛やらその他諸々が、非常にリアルに描かれています。
30代女子なら「ああ、分かる分かる」と共感できる部分がたくさんあるでしょうし、世代が異なる働く女性や、男性が読んでも「こんな30代の女性、うちの職場にもいるなぁ」ときっと思うことでしょう。
リアルすぎて身につまされる部分も多々ありました。


結婚していようがいまいが、30代の働く女性というのはとても微妙な立場だと思います。
まず気になるのは子どものこと。
結婚自体は何歳になってもできますが、妊娠と出産にはタイムリミットがあります。
とは言っても日本ではまだまだ女性の仕事と育児は両立しづらいのが現実。
重要な仕事を任された途端に妊娠では、さすがに周りに迷惑が掛かる。
けれども仕事状況とうまくタイミングを合わせて妊娠できるかというと、そう簡単なものでもない。
妊娠・出産がタイミングよく無事に済んだとしても、その後の育児と仕事のバランスはどう取っていくのか。
だんなさんの収入が十分なら専業主婦という手もあるけれど、何が起こるか分からない今の世の中、一度仕事から離れたら、社会からとり残されていくのでは…?
万が一離婚なんてした日には…?
もちろん未婚の場合はまず結婚相手探しが問題ですが、結局のところその先の子育てのことまで考えておかないと、もはや若くないだけに勢いでは結婚には踏み切れないという現実があると思います。
未婚であれ既婚であれ、30代の女性にはこうした問題が両肩に重くのしかかってくるのです。
だからこそ、その重圧から逃れてできる限り明るく振舞おうとして、この作品に描かれているような「いい年をして『女の子』の部分を捨てきれない女性」ができあがるのでしょう。


でもね、それって悪いこと?
この作品を読んだら、「女の子」の部分をいつまでも持ち続けていくのは全ての女性にとって大事なことなんじゃないかと思えてきました。
「女の子」を捨てて男性に甘えることもせず肩で風を切ってみたって、結局「可愛げがない」「女のくせに」などと叩かれるのがオチです。
それなら適度に男性に甘えて頼って上手く持ち上げて、お化粧やファッションも20代の子達に負けないくらい気合いを入れて、ランチやお茶やディナーを満喫して…っていう風に思いっきり「女に生まれた特権」を振りかざして楽しんだ方が絶対に得。
「女であること」をいつまでも肯定的に捉えていられるためには、「女の子」の部分をバランスよく(さすがに「女の子」の部分が極端すぎると痛々しい)保っていくことが必要だと思います。
どんな立場の女性でも同じ。
女性は結婚しているかしていないか、子どもがいるかいないか、働いているかいないかでずいぶん立場が変わり、それが元で敵対してしまったりもします。
でも根っこの「女の子」の部分が同じなら、きっと分かり合える部分があるはずです。
その証拠に、女子だけで飲みに行ったりしたときのガールズトークほど楽しいものはないですものね。
女の敵は女などと言いますが、女の味方もまた女なのです。
もっともっと女に生まれたことを楽しんでいきたいな。
そんなふうに思わされた作品でした。
そして、自分の中の「女の子」の部分が最近少し枯れ気味なのではないかとドキッとするところもありました。
だって最近、以前ほど化粧品にも凝らなくなったし、ファッション雑誌もここしばらく買っていない…。
いかん!!
もう一度気合いを入れなおさねば!!
手始めに、今週末は美容院に行って髪形を変えてみようかな、なんて思った私なのでありました。
全ての女子のみなさまにおすすめ。
☆5つ。