tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ジェネラル・ルージュの凱旋』海堂尊

ジェネラル・ルージュの凱旋(上) (宝島社文庫)

ジェネラル・ルージュの凱旋(上) (宝島社文庫)


ジェネラル・ルージュの凱旋(下) (宝島社文庫)

ジェネラル・ルージュの凱旋(下) (宝島社文庫)


大人気“田口・白鳥シリーズ”みたび登場!伝説の歌姫が東城大学医学部付属病院に緊急入院した頃、不定愁訴外来担当の田口公平の元には匿名の告発文書が届いていた。“将軍(ジェネラル)”の異名をとる、救命救急センター部長の速水晃一が特定業者と癒着しているという。高階病院長から依頼を受けた田口は調査に乗り出す。

チーム・バチスタの栄光』から始まった「田口&白鳥」シリーズ(いつの間にこう呼ぶようになったの?)3作目。
前作『ナイチンゲールの沈黙』はちょっとピントがぶれてしまったような感じがしましたが、この『ジェネラル・ルージュの凱旋』は海堂尊さんの本領発揮という感じで、非常に面白かったです。


本格医療ミステリとして登場したこのシリーズでしたが、ミステリ色はシリーズが進むごとに薄くなってきています。
今作では事件らしい事件は起こりません。
「ジェネラル・ルージュ」と呼ばれる若き救命救急センター部長、速水がある企業と癒着しているという謎の告発文書が届き、その文書の真偽や告発者は誰なのかといった謎をはらんで物語が進んでいく様子はミステリの体裁をとってはいますが、謎解きが主眼の作品ではありません。
院内のエシックス・コミティ(倫理委員会)の審議にかけられる田口や速水、それに白鳥と、エシックス・コミティ委員長の沼田らの舌戦がこの作品の一番の見所だと思います。
おっさんたちが会議室で向き合って論戦を繰り広げるという、絵的には非常に地味な場面が延々と続くのですが、これが実に面白いのです。
つかみどころのない沼田委員長に対し、論理で応戦する速水や白鳥という構図はとても分かりやすいですし、田口が苦戦した沼田委員長がついには「ロジカル・モンスター」たちに屈する様は、胸がすっとします。
そうした議論の合間には、ドクター・ヘリ導入に立ちはだかる壁、どうしても赤字を免れ得ない救急医療の現実など、現役の医師でもある作者ならではの、医療現場に横たわる問題に関するエピソードがさりげなく挿入され、物語のトーンが重くなりすぎない程度に読者に対する問題提起をしてきます。
エンターテイメントとして面白いだけの小説ではないところに、このシリーズの価値があるのだと思います。


登場人物たちもすっかりおなじみになり、今回も楽しませてくれました。
やはり本作ではダントツで速水がかっこいいですね。
クライマックスの大事故における救急対応の場面は、会議室での論戦の場面と好対照で非常に映像的に盛り上がりそうです。
若くして救命救急センターという戦場を指揮する速水の活躍ぶりが光っています。
その後のラストシーンの速水もやっぱりかっこいい。
あの白鳥さえしのぐ存在感で、際立ったキャラクターです。
そういうヒーロータイプの二枚目キャラでありながら、好物がチュッパチャプスというところで外してみせる、その描き方もいいと思います。
今年公開の映画では堺雅人さんが演じるんでしたっけ?
いいかも…と思っている私です(笑)
ぜひまたどこかで速水が登場する話を書いてほしいですね。
海堂作品の舞台である桜宮の空にドクター・ヘリが飛ぶ場面も、いつか読めることを願っています。
☆5つ。


それにしても、この作品は『ナイチンゲールの沈黙』と時間経過がほぼ同じなので、読み比べをしてみたかったのですが…『ナイチンゲール』は今親に貸し出し中だったのでした…(^_^;)
しまった〜!!