tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『おれは非情勤』東野圭吾

おれは非情勤 (集英社文庫)

おれは非情勤 (集英社文庫)


ミステリ作家をめざす「おれ」は、小学校の非常勤講師。下町の学校に赴任して2日目、体育館で女性教諭の死体が発見された。傍らには謎のダイイングメッセージが!一方、受け持ちのクラスにはいじめの気配がある…。盗難、自殺、脅迫、はては毒殺未遂(!?)まで、行く先々の学校で起こる怪事件。見事な推理を展開するクールな非常勤講師の活躍を描く異色ミステリ。他にジュブナイルの短篇2篇を収録。

なるほど、東野圭吾さんがジュブナイルを書くとこうなるのね。
ある意味予想通りというか、東野さんらしいというか。
…あ、褒めてますよ。


あらすじは上記の通りでこれ以上言うこともないのですが、面白いのはやっぱり主人公の先生ですね。
ミステリ作家を目指していて、執筆の時間を確保したいのでとりあえず小学校の非常勤講師として働いている「おれ」。
教師という職業に特に思い入れも情熱もなく、大の子ども好きというわけでもないので、学校に対しても教え子に対しても少し距離を置いたところから、クールに接している印象です。
うるさ型のPTA役員や年配の先生たちには目を剥かれてしまいそうな、少々乱暴な言葉遣いもしています。
けれども教師として不適格かというと、そんなことはないと思います。
学校で起こったさまざまな事件の解決を通して、子どもたちが抱える問題を掘り起こし、きちんと子どもたちに一つの答えを提示し、子どもたちが間違っていることに対して頭ごなしに叱りつけるのではなくやんわりと且つしっかりと諭す姿は、むしろ理想の教師像と言えるのではないでしょうか。
何より子どもたちに対して建前でごまかすことなく本音で真正面から接しているのは、教師である以前に一人の大人として非常に誠実で好感が持てます。
浪花少年探偵団」シリーズのしのぶセンセとは全然異なるタイプの先生ですが、これも東野さんにとっての理想の教師像の一つであることは間違いないだろうと思います。
そんな先生が、名前を明らかにされないハードボイルド探偵として描かれているのがとても面白いです。


子ども向けの作品ですから謎解きはそれほど複雑ではありません。
でも短い中にもちゃんと伏線を張ってあったりして、手抜かりがないのはさすがです。
殺人だの浮気だのと、子ども向けにしては物騒な話が堂々と登場するのも、下手に「子ども向け」を意識して「汚いものにはふたをする」といったような優等生的な小説にしてしまうよりよっぽどいいと思います。
主人公の「おれ」が子どもたちに本音で接しているのと同様、東野さん自身も読者である子どもたちを下に見ることなく、「一読者」として大人の読者と同じように誠実に向き合っている証だと思うからです。
それでもこの作品が学研の「5年の学習」「6年の学習」に連載された当時は、PTAから抗議があったそうです。
小学校高学年ともなれば、読書好きな子はそろそろ子ども向けの本では飽き足らずに、大人向けの本を少しずつ読み始める頃でしょうに。
私も5年生の時にはすでに赤川次郎さんとか山村美紗さんとか読んでましたからね(誰かが学級文庫に持ち込んだものだったと記憶しています)。
何とも的外れな批判に苦笑せずにはいられません。
もっとこういう大人も楽しめるジュブナイルが評価されるといいのにな、と思います。
☆4つ。