tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ジェシカが駆け抜けた七年間について』歌野晶午

ジェシカが駆け抜けた七年間について (角川文庫)

ジェシカが駆け抜けた七年間について (角川文庫)


カントクに選手生命を台無しにされたと、失意のうちに自殺したマラソンランナーのアユミ。同じクラブ・チームのジェシカは自分のことのように胸を痛めて泣いた。それから七年後、……。驚天動地の本格ミステリ

アメリカのマラソンクラブを舞台にしたミステリです。
ボリュームは少なめながら、歌野晶午さんらしくしっかり大きな仕掛けがありました。


非常にあらすじが説明しにくい作品ですが、物語の中心をなすのはマラソンクラブの監督やコーチ、ランナーたちのドラマだと思います。
ミステリの体裁をとってはいますが、マラソンについても女子マラソンの歴史についての記述があったり、国によって異なるマラソンランナーたちの選手生活事情やトレーニング方法に関しても書かれており、マラソン小説としても楽しめます。
ドーピングの話など、ちょっと嫌な話題も出てきますが、主人公であるエチオピア出身のランナー、ジェシカ・エドルの心優しいキャラクターが物語を気持ちの良いものにしてくれています。
特にラストはなかなか感動的で爽やか。
ジェシカが語る大きな「夢」がとてもよかったです。
この夢がいつか実現すればいいなと、私も願っています。
殺人事件を扱うミステリには珍しいくらいの、とても気持ちいい読後感でした。


肝心のミステリ部分に関しては、ちょっと疲れた頭で読んでいたせいか、真相が明らかになった後もしばらく意味が分からず、ボーっとしてしまいました。
「この部分」に仕掛けがあるな…とは思いながら読んでいたんですけどね。
まぁこれは私がこういうタイプのミステリに向く頭の冴えた状況ではなかったということで…また時間を置いてから、元気で絶好調な時に改めて読んでみようかなと思っています。
謎の仕掛け方自体はなるほどなと感心しましたので。
ちゃんとヒントも提示してくれていますし、私のように疲れ気味のときに読んでいると混乱してしまう多少の複雑さはありますが、非常にフェアな精神で読者に挑みかけてくるミステリだと思います。
ただ、「謎解きするぞ!」とがちがちに構えて読むよりは、あまり考えすぎずに素直に読んだほうが楽しめるタイプの作品かもしれません。
先に書いた通り、ミステリ部分を切り離してマラソン小説としても楽しめる作品ですので、まずはその部分を楽しむのがよいかと思います。
作者が丁寧に取材をしたのだろうなということが感じられ、またミステリ部分についてもよく考えられていると分かると思います。
☆4つ。