tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ホームタウン』小路幸也

ホームタウン (幻冬舎文庫)

ホームタウン (幻冬舎文庫)


札幌の百貨店で働く行島征人へ妹から近く結婚するという手紙が届いた。だが結婚直前、妹と婚約者が失踪する。征人は二人を捜すため捨ててきた故郷に向かう……。家族の絆を描く傑作青春小説。

切なくも温かい作風でミステリと家族小説を融合させた、小路幸也さんらしい作品です。
下町の大家族を描いた『東京バンドワゴン』とは違って崩壊した家族を描いていますが、昭和のホームドラマのような温かい雰囲気は確かに存在し、重いテーマを含みながらも気持ちよく読めました。


両親がけんかの末に殺しあったという忌まわしい過去から逃げ出し、たった一人血が繋がった妹と別れて暮らす行島征人は、北海道の大手百貨店に勤務しています。
百貨店勤務というからには販売職なのかと思いきや、「特別室」という特殊な部署に所属し、27歳にして部長の地位に就いて、社内の人間や上得意客や取引先に関係するさまざまな「問題」を調査するというほとんど私立探偵のような特殊業務に従事しているという設定が面白いです。
ちょっと現実離れしているような気もしますが、読んでいるうちにそう違和感はなくなってくるから不思議。
そんな特殊業務を行う部署が百貨店に存在する理由をきちんと説明してくれているからでしょうか。
征人の探偵ぶりも板についていて、普通の私立探偵ミステリとして十分に楽しめます。
そんな征人の妹・木実から結婚するという手紙が届き、喜んでいたのもつかの間、木実は突然失踪してしまいます。
木実と一緒に住んでいた女性から連絡をもらい、調査を開始してみると、木実が失踪する以前に婚約者も姿を消していたことが判明。
彼らはなぜ結婚直前に失踪したのか、2人に何があったのか、征人は上司や昔なじみの人たちの力を借りて謎に迫っていきます。
調査するにつれて少しずつ謎が増えていき、一体どんな結末を迎えるのかと先が気になりどんどん読まされます。
ただ、ミステリ度は低めかもしれません。
なにやらきな臭い事件も絡んできますがそのあたりは深く触れずさらりと流していますし、木実の失踪の理由にいたっては少し拍子抜けしてしまいます。
ですがそれも「家族」が再生する温かなラストシーンに繋げるためなのだと思えば納得が行きます。


そう、これは家族を失ってしまった人々が、また別の形で家族を得、再生していく物語です。
征人や妹の木実をはじめ、征人が身を寄せる「ばあちゃん」と里菜の2人家族、両親を失った征人と木実を引き取って育てた「カクさん」、独身を貫く元暴力団員の草場さん…。
みな、孤独など感じさせない温かな心を持ち、思いやりを持って人に接することのできる優しい人たちばかりで、読んでいてホッとさせられます。
血の繋がりなどなくても、絆を結び、家族のように身を寄せ合って共に生きていくことはできる。
「家族とは作っていくもの」なのだという征人の言葉には、一度家族を失った者だからこその重みがあります。
なくしたものをまた新たに一から作り上げていこうとする人々の強さと優しさが心に沁みる、希望に満ちた再生物語でした。
☆4つ。