tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ナイチンゲールの沈黙』海堂尊


第4回『このミス』大賞受賞作、300万部を突破した大ベストセラー『チーム・バチスタの栄光』の続編が登場。
大人気、田口・白鳥コンビの活躍再び!
今度の舞台は小児科病棟。病棟一の歌唱力を持つ看護師・浜田小夜の担当患者は、眼の癌―網膜芽腫の子供たち。眼球摘出をせざるをえない彼らに心を痛めた小夜は、患児のメンタルケアを不定愁訴外来担当の田口に依頼し、小児愚痴外来が始まった。

映画化、ドラマ化で何かと話題の『チーム・バチスタの栄光』の続編。
チーム・バチスタ』はとっても面白かったけど…続編はちょっと力みすぎたのでしょうか?
作者が書きたかったことは分かりますが、どうも焦点がぶれてしまっているような気がしました。


万年講師の田口、ロジカル・モンスターと呼ばれる白鳥ら、おなじみのキャラクターたちの会話はとてもテンポがよくコミカルで、前作同様とても楽しめました。
が、今回は登場人物が増えすぎた上、田口・白鳥コンビと似たような刑事コンビが登場して、一人一人の存在感が薄れてしまった印象があります。
ちょっとごちゃごちゃして誰が誰だか混乱気味でした。
今回の事件の中心人物として登場する看護師の小夜やその同僚たち、難病と闘う小児科の患者たち、吐血して彼らの病院に運び込まれた伝説の歌姫・冴子とそのマネージャーの城崎など、一人一人を見ればキャラが立っていて面白いのですが、これだけ登場人物が多いとあちこちに目移りしてしまって疲れてしまいます。
強烈な個性を持ったキャラクターとしては、すでに前作から引き続き登場の医師や看護師たちがいるのだからもう十分だったように思うのです。
いかにも脇役といった感じのキャラクターがおらず、ほとんどのキャラクターが主役級の個性を持っているのは立派ですが、この長さの作品にそれらの人物たちを全員押し込むには無理があるかなと思いました。
ただ、病院内の人間関係や病院という組織の抱える問題点については、さすがに現役の医師ならではのリアリティを持って描かれていて、とても興味深かったです。
普段あまり縁のない業界を垣間見るのは面白いものです。
この作品はそういった好奇心を十分に満たしてくれると思います。


一方で、ストーリー的にも今回は少し弱いと感じました。
前作は本格的医療ミステリという感じでよかったのですが、今回はミステリ色が薄まってしまった印象を受けました。
小夜や冴子の「歌」が持つ不思議な力という、ファンタジーかSFのような少し現実味の薄い要素に関しては、巻末の解説によると批判もあったとのことでしたが、私はこの点には特に引っかかりは感じませんでした。
それよりも個人的にはミステリとしての出来への不満のほうが大きかったです。
前作はそれなりに謎解きを楽しめ、犯人を追い詰めるラストも読んでいてハラハラしたものですが、今回は犯人は最初から分かっているようなもの。
それなら倒叙ミステリになるのかと思いきやそういうわけでもなく、中途半端な感じがしました。
それでも、ミステリ部分が多少弱かろうと、人間ドラマ的な部分で感動させてくれればよかったのですが、それほど大きな感動もなく終わってしまって残念でした。
結果、なんとなく不完全燃焼な感じが残る読後感でした。


…なんだか否定的なことばかり書いてしまいましたが、それはこのシリーズに対する期待感が大きいが故だと思います。
文章は読みやすいし、キャラクターは面白いし、現役の医師ならではの視点も興味深い。
この上さらにミステリとしての面白さを求めるのは欲張りでしょうか?
いえ、『チーム・バチスタの栄光』で本格医療ミステリの第一人者として華々しくデビューしたこの作者には、決して無理な注文ではないはずなのです。
次作に期待しています。
☆3つ。