tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『陰日向に咲く』劇団ひとり

陰日向に咲く (幻冬舎文庫)

陰日向に咲く (幻冬舎文庫)


ホームレスを夢見る会社員。売れないアイドルを一途に応援する青年など、陽のあたらない場所を歩く人々の人生をユーモア溢れる筆致で描き、高い評価を獲得した感動の小説デヴュー作。

この作品が出た時の世間の反応は「芸人が書いたにしては意外と面白い」というものが多かったと記憶していますが、実際に読んでみて、私も同じように感じました。
…けっこう面白いんですよ、これが。
文章力も、ちょっと「…ん?」と引っかかる部分も無くはなかったですが、そう気になるほどではなく、語り手の一人称なので口語体で書かれており、とても読みやすい文体です。
この作品は連作短編集のような構成になっており、各短編で主人公(語り手)が異なるのですが、サラリーマンから若い女性まで、言い回しや言葉遣いにも無理がなく、すんなりと物語の世界に入っていけます。
小説としても各短編はそれぞれ読後感のよい「ちょっといい話」になっていて、万人向けの話運びには好感が持てます。
登場人物たちにはどうしようもない馬鹿な人が多いのですが、根っからの悪人というわけではないので憎めません。
「馬鹿だなぁ、しょうがないなぁ」と、いつの間にやら微笑ましい目で登場人物たちの言動を追っている自分に気付きます。
ユーモアたっぷりの文章はさすがお笑い芸人の本領発揮といったところでしょうか。
さらには、ミステリ的手法を駆使するなど、なかなかの技巧派でもあります。
各短編同士のつながりの持たせ方もとても上手いですね。
思わぬ登場人物が後々の作品の意外な場面で登場して、ニヤリとさせられます。
ラストの落としどころも非常にきれいに決まっていて、感動…とまではいかないものの、気持ちよく読み終えることができました。


ただ、読み終わった後に何かが残るかというとそれはあまりないというのが正直な感想です。
何かを深く考えさせられる作品でもないし、強く心を揺さぶられるような作品でもない。
それこそ、ある程度実力のある芸人の、面白いコントを見たような感覚です。
「あ〜面白かった」と思うけれど、その面白さをどう面白いか論じても面白くないというか。
こうしてブログに感想を書くとなると、ネタばれも気になるので尚更「どう面白いか」を解説することは難しいです。
とにかく興味があるなら読んでみて、としか言えません。
エンターテイメントとして面白い作品であることは確かです。
「たかがお笑い芸人の話題作りでしょ」と思っている人は認識を改めたほうがよいかもしれません。
食わず嫌いの人も、偏見を取り払って、暇つぶしと思ってぜひ。
☆4つ。


ところで劇団ひとりさんってどんな持ちネタがあるんですかね??
よく考えたらこの人のネタって見たことないんですよね。
東京発のお笑い番組はあまり好きではない(というか私の笑いのツボとちょっとずれてるので)からほとんど見ないのです。
だから劇団ひとりさんは「平成教育学院」ぐらいでしか見たことない…(笑)