tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『弥勒の掌』我孫子武丸

弥勒の掌 (文春文庫)

弥勒の掌 (文春文庫)


愛する妻を殺され、汚職の疑いをかけられたベテラン刑事・蛯原。妻が失踪して途方に暮れる高校教師・辻。事件の渦中に巻き込まれた二人は、やがてある宗教団体の関与を疑い、ともに捜査を開始するのだが……。新本格の雄が、綿密な警察取材を踏まえて挑む本格捜査小説。驚天動地の結末があなたを待ち受けます。

何の予備知識もなく、あらすじ紹介だけ見て買いました。
そのせいでしょうか、見事に騙されてしまいました。


本作は2つのパートに分かれています。
1つは教え子の女生徒を妊娠させてしまい、妻からも周囲からも疎まれるようになった私立高校の教師・辻が主人公となるパート。
もう1つは何者かに愛妻を殺され、さらには汚職の疑いで人事から目を付けられる刑事・蛯原が主人公のパート。
この2つのパートが交互に語られていき、やがて合流して1つの物語になっていきます。
私が好きなタイプのミステリではよくある構成なので、もうそういう構成だと分かった時点でワクワクして続きが気になって仕方がありませんでした。
しばらく読み進めると、辻の妻の失踪事件と蛯原の妻の殺害事件にはどちらも「救いの御手」という名の怪しげな新興宗教団体の影がちらつき始めます。
この宗教団体がオウム真理教を髣髴とさせるような胡散臭さ極まりないものであり、辻と蛯原が2人とも不祥事を起こした人間であることから、社会的なテーマを含んだ重い雰囲気のミステリになるのかと思いきや…全然違っていました。
思い込みって怖いですね。
思いがけないどんでん返しにかなり驚いてしまいました。
詳しいことはネタばれとなるので控えますが、こんな仕掛けがあるとは思わず、すっかり騙されてしまいました。
でもミステリでこれだけきれいに騙されたのは久々だったので、なんだかちょっとうれしかったりして…。
最初に想像していたタイプのミステリではなかったけれど、結果的にはなかなか面白かったです。
ラストのオチもきれいに決まっていましたね。
背筋がうっすらと寒くなりました。
ページ数はコンパクトですが、きれいにまとまっていてなかなかの良作です。
☆4つ。