『神様からひと言』荻原浩

神様からひと言 (光文社文庫)

大手広告代理店を辞め、「珠川食品」に再就職した佐倉凉平。入社早々、販売会議でトラブルを起こし、リストラ要員収容所と恐れられる「お客様相談室」へ異動となった。クレーム処理に奔走する凉平。実は、プライベートでも半年前に女に逃げられていた。ハードな日々を生きる彼の奮闘を、神様は見てくれているやいなや…。サラリーマンに元気をくれる傑作長編小説。

荻原浩さんの作品は、ラスト1行が強烈な衝撃を与えるミステリ『噂』を最初に読み、次に映画化もされた感動作『明日の記憶』を読んで、この『神様からひと言』が3冊目なのですが、読む順番が明らかに逆行してますね(^_^;)
荻原さんが本来得意とするのはこの作品のようなユーモアたっぷりのコメディーです。
久しぶりにコメディーを読みましたが、気楽に読めて面白かったです。

ストーリー前半は主人公の佐倉凉平の転落ぶりが面白い。
大手の広告代理店に勤めていたのに、ある理由により退職に追い込まれ、中堅どころの食品会社に転職。
創業家3代目の副社長から直々に仕事を命じられ、張り切ってプレゼン準備をしていくものの、会議中に上司とトラブルになって、リストラ候補者の溜まり場である「総務部お客様相談室」に左遷される。
しかもプライベートでは同棲していた彼女に出て行かれ…。
このあっという間に人生が暗転していく展開で一気に物語に引き込まれます。
冒頭の会議のシーンには専門用語っぽいものも出てくるので、クールなサラリーマン小説を思い起こされますが、会議の後半からは一気にお笑い方向へ。
馬鹿馬鹿しいと思いつつも思わず笑ってしまいます。
そして凉平の異動先の「お客様相談室」がまた悲惨で、凉平の不幸に同情しつつもどうしても笑いが込み上げてきます。
上司をはじめ、お客様相談室のメンバーはリストラ候補だけあって(？)強烈な個性を持った変人揃い。
しかも仕事内容は困ったクレーマーや暇なお年寄りや恐喝まがいのヤクザなどからの電話の相手。
けれども「お客様の声は、神様のひと言」を社訓に掲げる会社でありながら、お客様相談室に届いた「神様」であるはずのお客様の声はお客様相談室を出た途端に即座にもみ消され、決して上層部の耳に届くこともなければ、明らかな商品の欠陥に対しても決して改善策が講じられることはない。
保身に走る上層部のおじさんたちもひどく間抜けで滑稽です。
ひどい会社だな〜と思いつつ、でもどこの会社にも似た部分はあるなぁと身につまされるのが会社勤めの悲しいところ。
でもだからこそ後半の凉平の反撃が生き、痛快で爽快な読後感を残してくれます。
ちょっとマンガっぽい展開ではありますが、ただのへたれサラリーマンのように見えていた凉平や、他の相談室の面々が会社に対してある行動を起こす場面は胸がすく思いがしました。
へたれでも何でも、開き直れば何でもできるんだと思うと、明日からもまた頑張ろうという勇気が沸いてきます。
笑ってすっきり、元気が出てくる小説でした。
☆4つ。
ところでこの本、某ブックオフの100円棚に大量に並んでいたんだけど(そのうちの1冊を私が買った)、一体何があったの…？