tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『3月のライオン(1)』羽海野チカ

3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)

3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)


その少年は、幼い頃すべてを失った。夢も家族も居場所も――。この物語は、そんな少年がすべてを取り戻すストーリー。その少年の職業は――やさしさ溢れるラブストーリー。

ハチミツとクローバー」の羽海野チカさんの新作。
スルーしようかと思っていたのに、あちこちで絶賛されているのを見てやっぱり見過ごせずに手に取ってしまいました。
今回は現役高校生でありながらプロ棋士という才能あふれる少年・零が主人公。
辛い過去を背負い、孤独とトラウマを引きずりながら、東京の下町で一人暮らす彼が辿り着いた将棋以外の居場所は、3人姉妹が身を寄せ合って暮らす川本家…。
私はあまり将棋のルールを知らないし、興味もないのでどうかなと思っていましたが、そんな心配は杞憂でした。
叶わない恋と青春の切なさやきらめきを甘酸っぱく、可愛らしく描いたハチクロから一転して、とても暗く重い雰囲気なので最初は戸惑いますが、次第にウミノワールドに引き込まれていきました。
ハチクロにも重苦しい部分はけっこうありましたが、その部分を取り出して膨らませるとこの「3月のライオン」になるのかな、という感じ。
ハチクロの森田兄弟の話で描かれた、才能のある者・ない者のそれぞれの苦しみが今回もしっかりと描かれるようで期待感が高まります。
そして、ハチクロの終盤がそうであったように、生と死のにおいが露骨に漂ってくるような、そんな強烈さもあります。
零が心に負った深い傷に悲しみの涙が流れ、川本家での温かな食事の風景に優しい涙が滲み…ととにかく物語のあちらこちらで泣かされてしまいました。
ハチクロでも散々泣かされましたが、これだけ心に響く作品を連続して生み出せる漫画家は貴重な存在かもしれないと思います。


それになんといってもキャラクターの造形がとても好きです。
主人公の零はちょっと暗い感じだけれど、川本家の次女・ひなたと三女・モモに対する接し方を見ていると、とても心優しい、人の気持ちを思いやれる少年なんだなと分かります。
水商売で家庭を支える川本家の長女・あかりおねいさんはとてもナイスバディで美人で、しかも面倒見がよくて頼れるお姉さん。
元気で健気なひなたも無邪気なモモちゃんもとても可愛くて、川本三姉妹が登場する場面は心が和みます。
零の棋士仲間で同い年の二海堂はちょっとヘンだけどなかなかいいところもある愛すべきキャラクター(ちょっとハチクロの森田さんっぽいかも?)。
川本家の猫たちもとても可愛いです。
他にも気になる登場人物がいるのですが、まだ序盤なのであまり詳しく描かれておらず、今後の展開に期待したいところです。
各話の扉絵が続きマンガになっているのもいい感じ。
いい絵だなぁと思ってじっくり眺めてしまいました。
ちなみにこの作品、掲載誌の「ヤングアニマル」は女性には非常に手に取りにくい雑誌らしいのですが(よく知らないのですが)、こちらの単行本は羽海野さんのファン層である女性に配慮してか、優しい色合いの落ち着いたデザインで安心です。
また次の巻を待つ楽しみができて、とてもうれしいです。