tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『償い』矢口敦子

償い (幻冬舎文庫)

償い (幻冬舎文庫)


36歳の医師・日高は子供の病死と妻の自殺で絶望し、ホームレスになった。流れ着いた郊外の街で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑い始めるが…。絶望を抱えて生きる二人の魂が救われることはあるのか?感動の長篇ミステリ。

本を買う時はよく紀伊国屋書店を利用するのですが、その紀伊国屋書店が大プッシュしているのがこの本。
平台に山積みにしてあって、ポップも気合いの入ったものだったので、そんなに面白いのかと手に取ってみました。
でも、う〜ん…ちょっと期待外れだったかな…。


上記のあらすじを読むと、とても重いテーマを持った重厚な社会派ミステリという感じですよね。
本自体も分厚くてボリューム満点だし。
覚悟しながら読み始めましたが、読んでみると実際のところそれほど心にずしんと来るような重さは感じませんでした。
確かにテーマはすごく重いものですし、登場人物たちの背負っている過去や家庭環境もとても苛酷で辛い。
ところが、そんなストーリーの重さに対して文体が少し淡々としすぎているように感じました。
おかげで重いテーマの割にはさらりと読めてしまうのですが、この読みやすさは「リーダビリティの高さ」とはちょっと違うなと感じました。
作者が書こうとしたものは確かに重厚な社会派ミステリだったのでしょう。
でもそれなら、登場人物たちが抱えている痛みが読者の胸をも痛めるような、読んでいて辛い気持ちになってくるような文章で描かれていなければ成功とは言えないのではないでしょうか。
描こうとしているものの重さと、文体の淡白さとがあまりにもミスマッチで、最後まで感情移入できませんでした。
多少あざといぐらいに感情のこもった文章の方がよかったんじゃないかと思います。


ストーリー展開としては悪くはないと思います。
登場人物たちはみな家族の突然の死や自殺、犯罪被害の後遺症、家庭内暴力、配偶者の不倫などなど、さまざまな傷を抱えています。
その苦しみの中で、一条のはかない希望の光に縋ろうとする姿が痛々しく、切なかったです。
刑事が事件現場にいたホームレスにそんなに事件についてペラペラしゃべるのか?という疑問はありましたが、これは終盤まで読むとその理由が分かりました。
ただミステリとしては、ラストの真相解明の部分があっさりとしすぎていてかなり物足りない感じです。
もともと感動を狙った作品だからそれでもよかったのでしょうが、残念ながらすでに述べたとおり私は文体の淡白さであまり感情移入ができなかったので、結局読後の満足感はあまり得られませんでした。
う〜ん、つくづくもったいない作品。
同じ題材でももっと「泣かせ」の文章が得意な作家が書けば本当に感動ものの泣けるミステリになっただろうに。
☆3つ。




♪本日のタイトル:Mr.ChildrenTomorrow never knows」より