tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『扉は閉ざされたまま』石持浅海

扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)


大学の同窓会で七人の旧友が館(ペンション)に集まった。
〈あそこなら完璧な密室をつくることができる……〉
伏見亮輔(ふしみりょうすけ)は客室で事故を装って後輩の新山(にいやま)を殺害、外部からは入室できないよう現場を閉ざした。自殺説も浮上し、犯行は成功したかにみえた。しかし、碓氷優佳(うすいゆか)だけは疑問を抱く。開かない扉を前に、息詰まる頭脳戦が始まった……。

最近読むようになった作家さんの中で特に気になって追いかけていきたいなと思っているのが石持浅海さん。
緊張感あふれるストーリー展開で、いつも最後まで一気読みさせられます。
この『扉は閉ざされたまま』も例に漏れず、でした。


この作品は本格ミステリですが、いわゆる倒叙もの。
犯人やその犯行の手口などが最初からすでに明かされていて、その犯行が探偵役によって論理的に暴かれていく過程を楽しむタイプのミステリです。
刑事コロンボ」シリーズとか、「古畑任三郎」とか、最近では福山雅治さん主演の「ガリレオ」なんかが有名ですね。
この作品の場合は冒頭から殺人場面が展開します。
犯人は伏見亮輔という男性、被害者は伏見の大学時代のサークルの後輩である新山という男で、殺害の手口は薬を飲ませて眠らせた新山の首を絞め、お湯を張ったバスタブに沈めて事故死に見せかけるというもの。
さらに伏見は殺害現場の部屋を密室状態にしておきますが、その密室作りのトリックも最初から読者に明示されます。
謎のまま残るのは、なぜ伏見は新山を殺したのか?という動機の部分と、なぜ密室にしなければならなかったのか?という部分。
この2つの謎も含めて、探偵役である碓氷優佳が明晰な頭脳でロジックを組み立て、きわめて論理的に謎を解いていきます。
この作品の面白いところは、タイトルにもあるように、犯行現場の部屋の扉はある理由のためずっと閉じられたままで、探偵役の優佳は現場に入ることはもちろん、窓から覗くなどということもなく、一切現場を目にすることなく限られた情報の中で謎を解いてしまうという点です。
扉が開かれない理由もきちんと説明がされていて納得のいくものなので、優佳の頭のよさが際立って印象に残ります。
犯人の伏見もとても冷静で頭の切れる人物なので、探偵役の優佳との頭脳戦が存分に楽しめました。


もう一つ、石持作品の大きな特徴といえるのが、犯人の動機の独特さだと思います。
『月の扉』を読んだ時にもそのある意味珍しい動機には驚きましたが、少し説得力不足ではないかとも感じました。
この『扉は閉ざされたまま』の動機も、かなり意外なものであり、そのために議論を呼ぶところではないかと思います。
私が読んだ文庫版ではこの動機部分の説得力を強化するためか、「前夜」というタイトルの短い章が一つ加筆されています。
そのおかげで『月の扉』よりはすんなりと納得できました。
「こんな理由で人を殺しちゃうの?」と思わなくもないですが、伏見の性格を考えるとありえなくもない、と思えますし、そもそも現実に起きている殺人事件だって、犯人の動機は些細なものが多いような気がします(もちろん結局は犯人自身にしか…いや犯人自身にも分からない犯行動機があるのかもしれませんし、マスコミには明かされない事実もたくさんあるのでしょうけど)。
それを考えると結局はどんな動機でも成り立ってしまうような気がしますが、とにかく動機の意外性も石持作品の大きな魅力の一つです。
私はこの「特異な」動機部分も含めて、楽しんで読むことができました。
☆4つ。
碓氷優佳を探偵役に据えたこの倒叙ミステリは3部作のシリーズものになるとのことで、続編も非常に楽しみです。