tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『バッテリー V』あさのあつこ

バッテリー〈5〉 (角川文庫)

バッテリー〈5〉 (角川文庫)


「おれは、おまえの球を捕るためにいるんだ。ずっとそうすると決めたんじゃ。何があってもそうするって…本気で決めたのに」
天才スラッガー、門脇のいる横手二中との再試合に向け、動きはじめる巧と豪。バッテリーはいまだにぎこちないが、豪との関わりを通じて、巧にも変化が表れつつあって―。
横手の幼なじみバッテリーを描いた、文庫だけの書き下ろし短編「THE OTHER BATTERY」収録。

シリーズ完結まであと2冊。
さすが成長著しい中学生の男の子たち。
巧や豪にも少しずつ変化が見え始めました。


キャッチャーとして巧に付き合っていく自信を失いかけていた豪は、まだ迷いや心の揺れが見られるものの、なんとか再び巧とバッテリーを組めるようになりました。
ただ、巧に対するいらつきを抑えられず、いつもの豪らしくもなく思ったことをそのまま言葉にして巧にぶつけてしまったりします。
…まぁ気持ちは分かるよね。
巧ってひねくれてて可愛げがなくて自分を中心に物事を考える嫌なヤツだもん(笑)
でもそうやって本音を巧にぶつけたのがよかったのか(巧の弟の青波には嫌われてしまいますが)、巧の心境にも変化が訪れます。
今まで、他人のことなんかどうでもいい、ただマウンドに立って最高の一球をキャッチャーミットに向かって投げ込む快感を追求したいという思いしかなかった巧が、豪のキャッチャーではない部分も知りたいと思い始めるのです。
チームメイトたちとハンバーガーショップに寄ったり、女の子の話をしたり…と、野球以外のことにも徐々に関心を向け始めます。
これはよい変化でしょうね。
巧はまだ中学生。
野球以外に知らなければならないことがたくさんある。
たくさんのことを知って、その中で本当に自分が適しているのは野球だと、「野球しかない」のではなくて、たくさんの選択肢の中から「野球を選ぶ」という風にしなくてはならないのです。
ピッチャーとして天才的な才能を持って生まれた巧だからこそ、その才能に振り回されて潰されないためには。
少し心が柔らかくなり始めた巧と、不安と迷いを抱えながらも巧のキャッチャーとしてやっていくと決意した豪が、バッテリーとしてどのような成長を見せ、約束の横手二中との試合でどんな球を見せてくれるのか、楽しみです。


巧や豪だけでなく、横手二中の瑞垣の心理描写もなかなか興味深かったです。
『バッテリー IV』でも思ったとおり、やっぱり瑞垣は天才スラッガー・門脇や巧とはまた別の次元での天才なんだろうな。
豪は瑞垣が自分の感情を外にも見せずに内にも溜め込まずにうまく処理していると感心しているけれど、実際のところは豪や巧と同様、自分の身体からあふれ出そうとする凶暴な感情と必死に戦ってきたんじゃないかと思います。
わざとおちゃらけてみせることで、自分を軽く見せることで、外から悟られないようにするのが少しうまいだけで。
きっと中学生くらいの少年少女って誰でもそうなんでしょうね。
自分の内に何か激しいものを抱え持っていて、誰もが自分自身と戦っている…。
その戦いを乗り越えることこそが、「大人になる」ということなのかなぁと思います。
…と言いつつ、私自身まだまだ自分の全てを自分の思い通りに律することができるわけではないし、自分の想いを他人にうまく伝えられないでいるのですが。
大人への道ははるか遠く、険しいですね。
☆4つ。




♪本日のタイトル:Mr.Children「優しい歌」より