tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『バッテリー III』あさのあつこ

バッテリー 3 (角川文庫)

バッテリー 3 (角川文庫)


「巧。おまえにだけは、絶対負けん。おれが、おまえにとってたったひとりの最高のキャッチャーだって心底わからせてやる」
三年部員が引き起こした事件によって活動停止になっていた野球部。その処分明け、レギュラー対一年二年の紅白戦が行われ、巧たちは野球が出来る喜びを実感する。だが未だ残る校長の部に対する不信感を拭うため、監督の戸村は強豪校、横手との試合を組もうとする…。一方、巧と豪の堅かった絆に亀裂が入って!?
青波の視点から描かれた文庫だけの書き下ろし短編「樹下の少年」収録。

シリーズ中盤に差し掛かり、ストーリー展開にスピード感が出てきて面白くなってきました。
だんだん野球の話らしくなってきましたし。


この巻では、登場する中学生たちがみんなすごく大人っぽくて感心しました。
巧や豪は大人なんだか子どもなんだかよく分からないけど(笑)、キャプテンの海音寺なんか中学生離れしたしっかり者だと思います。
起こしてはならない問題を起こして野球部を去っていった展西にしても、海音寺とは別の意味ですごくよく考えて、冷静に自分が所属する部を見つめているんだなと感心させられました。
自分の所属する組織をこんなに離れた視点から見るのって、大人でもけっこう難しいと思います。
それぞれの登場人物の台詞回しやストーリー展開に全く甘さがなく、時に読むのが辛くもなってきますが、それは作者のあさのさんが中学生を子ども扱いするのではなく、同じ対等な人間として尊重し、冷静な目で見ているからなんだろうなと思いました。
中学生って、大人が思っている以上に「大人」なのかもしれませんね。


でも、中学生はやはり親や教師の庇護の下にある存在。
自分たちの意思だけで何かを決め、やろうとすると、必ず被保護者であるが故の壁にぶつかります。
新田東中の校長先生が巧たちにお説教混じりに語る「学校野球のあり方」…。
個人の素晴らしいプレーよりも、何よりも大事なのはチームワークだという校長先生の考え方も分からないではありません。
確かにチームワークは大事。
自分を犠牲にしても「チームのために」頑張ることも。
でも…個人の力を伸ばすことに焦点を当てることも、間違ってはいないはずです。
特に巧のように、自分はもっともっと成長できる、素晴らしいプレイヤーになれるという自信とその自信に見合うだけの実力と可能性を持っている生徒にとっては、中学校の部活動といえどもその力を抑えてまで「チームのために」などと考えてはいられないのではないでしょうか。
そんなことをしていると、自分が伸びるチャンスを逃してしまうかもしれない。
イチロー選手や松井秀喜選手のような「天才」と呼ばれる人たちは、小学校や中学での野球にはどんなスタンスで取り組んでいたんでしょうね。
自分の力を伸ばすことよりもチームワークのほうを第一に考えていた…とはちょっと想像しにくいような気がするのですが。
校長先生には巧の実力と可能性は見えていなくて、だからその野球部の和を乱すような態度ばかりが目に付くのかもしれません。
でも、最初は校長先生と同じような立場だった顧問の戸村先生も、巧の扱いにくさに手を焼きながらも結局はピッチャーとしての巧の魅力に取りつかれてしまった。
巧の融通の利かなさや自己中心的な態度には読んでいるだけでもイライラして、こんな子が実際に目の前にいたらムカつくだろうなぁなんて思ってしまうのですが、それでもなんだか爽やかで輝いて見えるのは、彼が本物の「天才」であり、「少年」であるからなのでしょうか。


それにしても気になるところで絶妙な終わり方をしていますね〜。
一気に続きを読んでしまおう。
巻末に収録の短編「樹下の少年」にはなんだかジンとさせられました。
☆4つ。




♪本日のタイトル:ゆず「栄光の架橋」より