tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『バッテリー II』あさのあつこ

バッテリー〈2〉 (角川文庫)

バッテリー〈2〉 (角川文庫)


「育ててもらわなくてもいい。誰の力を借りなくても、おれは最高のピッチャーになる。信じているのは自分の力だ―」
中学生になり野球部に入部した巧と豪。二人を待っていたのは監督の徹底管理の下、流れ作業のように部活をこなす先輩部員達だった。監督に歯向かい絶対の自信を見せる巧に対し、豪はとまどい周囲は不満を募らせていく。そしてついに、ある事件が起きて…!

シリーズ2作目の本作では、巧たちがようやく中学に入学し、野球部に入部してようやく本格的に物語が始動します。
けれども1作目を読んだ時に感じたように、巧はやっぱり問題を起こしてしまいます。


思い返してみれば、確かに中学って訳の分からないルールがいっぱいありました。
靴下は白で、三つ折にしなければならないとか、髪を結ぶゴムの色は黒か茶色か紺色だとか。
当時の私はそれほど疑問に思うこともなく、ルールとして決まっていることなら守らなきゃとか思っていましたが、今考えてみると、別に靴下が何色だろうと、ハイソックスを折らずにそのまま履こうと(雪国の女子中高生たちが白いソックスだけ履いて素足を出しているのをテレビで見ていつも寒そう〜と思うのですが、あれはやっぱり校則でタイツはダメとか決まっているからなんでしょうか?)、髪留めが多少派手な色であろうと、そんなこと人間にとって大した問題ではないですよねぇ。
どうせ大人になったらみんな自由な格好をするようになるんだし。
そんなことよりも、きちんと挨拶ができるとか、困っている人がいたら助けてあげるとか、乱暴な言葉遣いをしないとか、交通ルールや公共の場でのマナーを守るとか、そういうことの方がよっぽど大事だし、服装検査や持ち物検査なんかにかける時間があるならば、そういういずれ社会に出る人間として絶対に身につけておかなければならないことを教えるのに全力を注いで欲しいと思うのですが。
厳しくするところが間違っているような気がします。
で、そういう中学校の「ヘン」なところに気づいている巧。
先生や上級生からの、服装や髪型や持ち物についての指示を聞こうとはしません。
反抗的な巧の態度は、周りに敵もたくさん作っていきます。
頭を丸坊主にしなければ、野球部でレギュラーになれないかもしれない。
それでも、実力のある選手を、頭は丸坊主などという訳の分からないルールを守らないというだけで試合に使わないのはおかしいという巧。
大好きな野球さえできればあとのことは些細なことなんだから、納得のいかない指示にでも素直に従っておこうという豪。
どちらの意見にも一理あるでしょう。
この意見の相違が元でけんかもしてしまう2人ですが、言いたいことの言い合えるその関係はうらやましいなと思います。


今回は巧や豪たちだけでなく、大人たちの視点から書かれた部分もたくさんあって、それもまたよかったと思います。
素直な子どもらしさのない巧を持て余す巧のお母さんも、一人息子の豪に病院を継がせたい豪のお母さんも、厳しく徹底的に部員たちを管理しようとする野球部の監督も、子どもたちにとってはうっとうしい存在でも、本人たちはそれぞれの立場で子どものことを想っているだけなんでしょうね。
他者の視点に立ち、他者の立場に立って考えることは必要だけれど、でもそれはとても難しい。
教育するという立場にある大人にとっては、なおさら。
上述の学校での規則の問題や、子どもたちへの接し方なども含め、ある種の教育論としても読める作品かもしれません。


それにしても巧の存在感はすごいですね。
自信家だし、柔軟性もないし、頑固で一本槍なところもあって、共感できるキャラクターではないのですが、それでもぐいぐいと読者を物語に引き込ませるのは、間違いなく巧の力です。
豪や巧の弟の青波なんかはとてもいい子たちで可愛いのですが、それでも彼らには全6巻に及ぶ長い物語を引っ張っていく力はないと思います。
いろんな壁にぶつかるたびに、巧がどんな言葉を発し、どんなふうに行動し、どうやって壁を乗り越えていくのか、気になって仕方がなくて、だから早く次の巻が読みたくなります。
やっぱり6巻一気読みを選択したのは正解だったかも。
個人的にはこの2巻は1巻よりも読み応えがあって好きです。
☆5つ。




♪本日のタイトル:スキマスイッチ「全力少年」より