tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『いま、会いにゆきます』市川拓司

いま、会いにゆきます (小学館文庫)

いま、会いにゆきます (小学館文庫)


タイトルの意味を知ったとき、その言葉に込められた強く切ない思いに、きっと涙すると思います。「おはよう」とか「おやすみ」とか「行ってらっしゃい」とか、そんなささやかな日常にこそ幸福はある。「愛してる」と言える人がいるだけで人はこんなにも幸福になれる。そういうシンプルな真実をファンタジックな物語に仕立て、単行本刊行時には「感涙度100%」と評された傑作恋愛小説です。未読の方はぜひこの機会に読んでみてください。

本屋で本書を手にとって、やけにカバーが分厚いなぁ?と思ったら、なんとカバーが2枚付いていたのでした。
1枚は福山雅治さん撮影の写真を使ったカバーで、コラボ企画ものなんですね。
ふむふむ。
…その割には写真が小さすぎる気がするけど。
もっとちゃんと見たければ福山さん撮影の写真集を買えってこと…?


さて、本書は中村獅童さんと竹内結子さんの結婚のきっかけとなった映画の原作です。
う〜ん、原作が文庫落ちする前に赤ちゃんが出来て、結婚して、離婚するとは…なんてスピーディーなカップルでしょう(いまさらですが)。
ま、私は映画は観ていないのでなんとも言えません。
ですが原作の雰囲気はとてもいいですね。
市川拓司さんの小説には独特の雰囲気があると思います。
物語全体の空気は澄んでいて、綺麗で、透明感あふれるものなのですが、ちょっと痛くて重苦しい部分もあって。
一見「優しく、心温まるファンタジー」なんですが、綺麗なだけではないという現実はきちんと見据えていると思います。
この作品の場合、主人公の巧は身体に少々厄介な「不具合」をいくつか抱えています。
自分ひとりでは掃除も洗濯など身の回りのことが何一つ満足にできないのに、最愛の奥さん・澪に先立たれ、一人息子の祐司と2人暮らし。
物語を読んでいると、本当に頼りないというか危なっかしいというか、この人大丈夫かしら…と澪でなくても心配になってくるちょっと弱々しいお父さんです。
でも、弱さは優しさの裏返し。
彼が澪や祐司にかける言葉には乱暴さが全くなくて、優しく暖かく落ち着いた感じがします。
電話が嫌いだとか、禁煙だから出先ではスタバに入るとか、私と似た部分もいくつかあってけっこう親近感もありました。
だからでしょうか、読んでいる間はずっと、この弱く優しい男性を中心にした3人の家族を温かい目で見守っているような、そんな感じがしました。


ストーリー的にはかなり悲しいお話なのですが、私としては泣けるというよりは、この3人の家族の幸せが伝わってきて、とても温かい気持ちになれました。
いやホントに、幸せな、理想的な家族なんだもの。
巧の身体の「不具合」のせいでいろいろ我慢しなければならないことや大変なこともあるのですが、それでもただ一緒に日々を過ごしているだけで十分幸せというのがひしひしと伝わってくるのです。
なんか、それだけに中村獅童竹内結子カップルがそうなれなかったのがなんとも皮肉というかなんというか…。
え?
もうそれはいいって?
ダメですねぇ、なまじ映画が話題になってしまうとそのイメージが原作の方にもついてしまって(^_^;)
おかげであまり純粋な気持ちでは読めなかったかもしれませんが、なかなかいい小説でした。
☆4つ。