tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『天使の梯子』村山由佳

天使の梯子 Angel's Ladder (集英社文庫)

天使の梯子 Angel's Ladder (集英社文庫)


バイト先のカフェで耳にした懐かしい声。それはフルチンこと古幡慎一が高校時代に思いを寄せた先生、斎藤夏姫のものだった。8歳年上、29歳の夏姫に、どうしようもなく惹かれていくフルチン。だが彼女は、体はひらいても心を見せてはくれない。10年前の「あの時」から夏姫の心には特別な男が棲んでいるのだから──。傷ついた心は再生するのか。愛は蘇るのか。それぞれの思いが交錯する物語。

村山由佳さんのデビュー作『天使の卵』の続編です。
あまり詳しく『天使の梯子』について述べることは『天使の卵』のネタばれにつながりかねないのですが…なんとかネタばれしないように感想を書いてみます。


舞台は『天使の卵』から10年後。
大学生の古幡慎一は、アルバイト先のカフェに客としてやってきた高校時代の担任教師、斎藤夏姫と再会する。
最初は憧れの先生だった夏姫に声もかけられなかった慎一だが、ある事件をきっかけに夏姫と付き合い始めるが、彼女は慎一に何かを隠しているようで…。
こういう若い男の子(笑)の甘酸っぱくてちょっと切ない恋愛感情を書かせると、村山さんは本当にうまいなぁと思わされます。
まぁ、もちろん私は女なので若い男性の心理を正確に理解しているかというと自信はないのですが、けっこうリアルなんじゃないのかなという気がします。
もちろん女とは違う部分もたくさんあるのですが、なぜか村山さんが書く男性主人公には共感できてしまうのです。
夏姫が自分に対して完全には心を開いてくれていないということを敏感に感じ取り、やがて夏姫が頻繁に連絡を取り合っている男性がいることに気付くと嫉妬でいてもたってもいられなくなる慎一のその気持ちは、女性であっても持ちうるものだからかもしれません。


ですが、そんなふうに慎一に共感しつつも、『天使の卵』の既読者として気になるのはやはり夏姫の方。
慎一の視点からしか語られない夏姫が、「あの時」からの10年間をどんな風に過ごしてきたのか、どんな思いを抱いてきたのか、気になって仕方がありませんでした。
何しろ『天使の卵』では夏姫がいちばんかわいそうな目にあって、かわいそうなまま物語が終わってしまいましたからね…。
気にならないわけがありません。
天使の卵』のあの衝撃のラストに、夏姫はもちろん深く傷ついていて、それはやはり読者として胸が痛みましたが、本書を最後まで読んで安心することが出来ました。
天使の卵』の続編が出ると聞いた時、どんな話になるのか心配もありましたが、読み終わった今となっては続編を書いてくれてありがとうという気持ちです。
実はまだこの後にももう1冊続編(『ヘヴンリー・ブルー』)があるんですよね。
そちらのほうも早く読みたくなりました。


私は『天使の卵』を既読でしたが、未読の方でも既読の人とはまた違った楽しみ方が出来る作品ではないかと思います。
切ない恋愛小説が好きな方におすすめ。
☆4つ。