tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『最後の願い』光原百合

最後の願い (光文社文庫)

最後の願い (光文社文庫)


人気デザイナー・橘 修伍の元に、怪しげな男が訪ねて来た。芝居の舞台美術を依頼したいと言うのだ。お話にならない報酬に断る橘だが、そこへ死んだ旧友の妻が訪れる。かつて彼が恋した女性が、冷たい怒りを胸に抱いて……。(「最後の言葉は…」)
劇団立ち上げに奔走する青年・度会恭平とその仲間が、謎に満ちた事件を、人の心の不思議を、鮮やかに解き明かしてゆく!

優しい作風で知られる光原百合さんの連作短編集です。
人の死を扱った話もあるけれど、一応は「日常の謎」系のミステリと言っていいのではないでしょうか。
日常の謎」好きな私にはとても楽しめました。


主人公は度会恭平と風見爽馬という2人の青年。
実はこの2人は小劇団を立ち上げようとしていて、必要な人材を探し回っている。
その人材を探してさまざまな人のところへ協力をお願いしに行くとそこには「謎」があり、2人がその謎を解くことで人々は彼らを信頼し、劇団の旗揚げに協力するようになっていく…。
そんなお話が、全部で7話収められています。
さすがこのミスで10位に入ったというだけあって、謎解きはなかなかうまく出来ています。
特に5話目の「写真に写ったものは…」では見事に騙されてしまいました。
ある一文…いや一単語に「ええっ!!??」となって、思わず最初に戻って読み直してしまいました。
こんな単純な仕掛けに騙されるのって私くらいかなぁ…。
でもここでこういうトリックが使われているとは予想もしていなかったし、こういう騙し方もあるんだな、と目からうろこでした。
それに、連作短編集ですから長編のように全体の流れの中で楽しめるようにもなっているのがうれしいところです。
2話目の「彼女の求めるものは…」で残された謎が6話目の「彼が求めたものは…」で明かされたときはとてもすっきりしました。
この2話はタイトルも対になっていて、よく考えられているなと思います。
各話における謎の真相の切なさは光原さんらしいなぁと思いました。
光原さんらしいといえば登場人物の優しさも忘れてはいけません。
主人公の度会と風見は、一見ちょっとヘンな人というか、ちょっと嫌な感じの人という印象もあるのですが、根はとても心優しい青年たち。
謎解きをする時も、ちゃんと謎の真相を知ることになる相手の気持ちを思いやって、十分に配慮している様子が読み取れます。
辛く悲しいエピソードもいくつか出てきますが、この主人公2人をはじめとして、何人かの心優しい登場人物たちがいるので後味は悪くなくとても爽やかです。
このあたりは光原さんの本領発揮といっていいでしょう。


個性豊かな登場人物たちの軽妙な会話も楽しく、もっとこの楽しげな小劇団のお話を読みたいなと思いました。
光原さ〜ん、ぜひシリーズ化をお願いしま〜す!(光原さんは自著の感想や意見をネット上でチェックされているようなので、何かの拍子にでもこの文章が光原さんの目に留まるといいな〜と思いつつ…)
☆4つ。