tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『誰もわたしを愛さない』樋口有介

誰もわたしを愛さない (創元推理文庫)

誰もわたしを愛さない (創元推理文庫)


桜が散り騒ぐ春。娘の加奈子に振り回された後に、月刊EYESの打ち合わせに訪れる柚木。その場で新しい担当の小高直海の紹介と、新たな事件記事の依頼を受けることに。事件は渋谷のラブホテルで発生した、女子高校生殺害事件。行きずりの犯行と思われる事件に、食指は動かないものの、さっそく直海を相棒に現場のホテルや、被害者の友人を訪ね歩くと……。イマドキの女子高校生には圧倒され、次々現れる美女には翻弄され、そして事件の思わぬ展開に、柚木の悩みはまだまだ尽きない。好評シリーズ第6弾。

「柚木草平」シリーズも第6弾に突入。
本書のあとがきで作者自身が述べておられる通り、初期の作品と比べるとずいぶん文章がこなれて読みやすくなった印象を受けました。
ストーリーはこのシリーズの王道とも言える展開で、ずっとこのシリーズを読んできた読者にとっては安心して読むことができます。
相変わらず小学生の娘から女子高生、別居中の妻、元上司、熟女(!?)まで、とにかく女性にばかり縁がある柚木。
男性読者にとってはうらやましい限りでしょうか。
けれども柚木自身はそんな恵まれた環境にありながら、常に厭世的で自虐的です。
陰鬱な気持ちを酒で洗い流す、そんな生活を送りながら暗い事件を追うという話なので、読んでいて暗くなってくるかといえばそんなことはなく、女性たちと柚木との軽妙なやり取りが面白くて楽しく読めるのがこのシリーズのよいところ。
特に小学6年生の娘とのやり取りは、幼くても、あるいは自分自身の娘であっても、やはり女性という生き物には振り回される運命の柚木の姿がどうにもおかしくてついつい笑ってしまいます。
今作では新人編集者の小高直海という個性豊かな女性がまた新たなレギュラーメンバーとして加わり、一層物語を華やかに(?)彩ってくれているところも注目です。


ところで、作者のあとがきによると、なんとこの作品が最初に講談社から出版された時、単行本でも文庫でも、帯を見ると犯人が分かる!…という状態になっていたそうです。
なんでまた?
確かにこのシリーズは犯人当てが主眼のミステリだというわけではないけれど、それでもちょっと最初から犯人をばらされているというのはひどいなぁ…。
この作品の場合、犯人が分からない状態でないとラストのどんでん返し(というほど驚かされるものでもないですが)が生きてこないと思うのですが。
講談社さん、なかなか無茶なことをやるものです(笑)
それにしても本書のタイトルの意味が分かった時はうならされました。
非常に意味深で、少し切ない、よく出来たタイトルです。
女性がたくさん登場するミステリですが、どうにも痛々しいというか、哀しい女性が多くて、読後感に切ない余韻を残す作品でした。
☆4つ。