tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『エンジェル』石田衣良

エンジェル (集英社文庫)

エンジェル (集英社文庫)


投資会社のオーナー掛井純一は、何者かに殺され、幽霊となって甦った。死の直前の二年分の記憶を失っていた彼は、真相を探るため、ある新作映画への不可解な金の流れを追いはじめる。映画界の巨匠と敏腕プロデューサー、彼らを裏で操る謎の男たち。そして、一目で魅せられた女優との意外な過去。複雑に交錯する線が一本につながった時、死者の「生」を賭けた、究極の選択が待っていた―。

集英社文庫の「ナツイチ」キャンペーンでもらえるストラップが欲しいがために買った1冊(笑)
でも面白かったから良かったです。


何者かに殺された主人公が幽霊となってこの世に舞い戻り、特殊な能力を身につけたり、愛する女性を見守ったりしながら自分自身の殺人の真相にたどり着く…という展開は、有栖川有栖さんの『幽霊刑事』にそっくりですが、石田衣良さんらしさはちゃんと出せているのかな、と思いました。
幽霊となった主人公の純一には、生命が白い光に、死は黒い光に見えます。
その光と闇のコントラストさながらに、ストーリー展開にも希望あふれる輝かしい場面や穏やかな優しさの感じられる場面と、激しい暴力や醜い欲望、残酷な現実を描いた場面とがバランスよく配置され、文章の読みやすさもあって飽きることなくすいすいと読み進められました。
最初に純一の人生を振り返るフラッシュバックがあったため、純一がどんな風に育ちどんな風に生きどういう性格の持ち主だったのかということがよく分かり、さらには外見的な特徴もつかめたので人物像が想像しやすく、感情移入しやすかったのがよかったと思います。
ただ、ミステリとしての物語の結末はけっこう無難な線に落ち着いてしまったのが少々残念。
途中で大体展開が読めちゃったしなぁ…。
それでもラストのエピローグはプロローグとうまい具合に対になっていて、この作品で石田さんが書きたかったのであろう「死」と「生」とのつながりが浮かび上がってきました。


さすがは人気作家、安定した筆力で安心して読める1冊です。
☆4つ。