tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『真夜中の五分前』本多孝好

真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐A〉 (新潮文庫)

真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐A〉 (新潮文庫)


真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐B〉 (新潮文庫)

真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐B〉 (新潮文庫)


少し遅れた時計を好んで使った恋人が、六年前に死んだ。いま、小さな広告代理店に勤める僕の時間は、あの日からずっと五分ズレたままだ。そんな僕の前に突然現れた、一卵性双生児のかすみ。彼女が秘密の恋を打ち明けたとき、現実は思いもよらぬ世界へ僕を押しやった。洒落た語りも魅力的な、side-Aから始まる新感覚の恋愛小説。偶然の出会いが運命の環を廻し、愛の奇蹟を奏で出す。

デビュー作が「このミステリーがすごい!」のベスト10に入ったため、ミステリ作家として見られることもある本多孝好さんですが、個人的にはこの作家さんは恋愛小説の方がうまいと思います。


この『真夜中の五分前』は、「side-A」と「side-B」とに分かれています。
同じ時間軸を2つの視点から描いているのかと思ったら、視点は同じ主人公の「僕」で、時間軸もside-Bがside-Aの続きになっていました。
side-Aだけ読むと、主人公の「僕」は6年前に突然の交通事故で恋人を亡くしており、「僕」が公営プールで出会ったちょっと気になる女性は愛してはいけない人を愛してしまって苦しんでいる…という切なく胸が苦しくなるような、でもわりとありがちの恋愛小説という感じです。
ですが、面白いのはside-Bに入ってから。
side-Aから2年ほど経ったside-Bは冒頭から驚きの展開を見せます。
さらに読み進めていくと、ラストでも意外な事実が明らかになります。
その驚きが生み出す切なさが、本多さんの恋愛小説らしくていいですね。
ポイントになるのは「一卵性双生児」。
自分と全く同じ遺伝子を持つ人間がいつも隣にいるということは、どういうことなのか。
「自分は一体何者か」なんて真剣に考えてしまったら生きていけないような気がするけれど、考えずにはいられない人がいるなら、その疑問とどうやって折り合いをつけていくのか。
「僕」の上司の女性が言った「何者でもない時間が時には必要」というのがその答えなのかもしれません。
会社員としての自分でも、誰かの恋人としての自分でもなく、ただありのままの自分に戻ってゆっくり休み、自分のために時間を使い、時には過去を振り返ってみる…。
勤め先の会社の中で嫌われ者だった「僕」が2つの悲しい恋から得たものは、自分が自分であるという証だったのかもしれません。


なんだかよく分からなくなったけど(笑)、つらつらとそんなことを考えさせられた印象的な作品でした。
☆4つ。