tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『幸福な食卓』瀬尾まいこ

幸福な食卓 (講談社文庫)

幸福な食卓 (講談社文庫)


佐和子の家族はちょっとヘン。父を辞めると宣言した父、家出中なのに料理を届けに来る母、元天才児の兄。そして佐和子には、心の中で次第にその存在が大きくなるボーイフレンド大浦君がいて……。それぞれ切なさを抱えながら、つながり合い再生していく家族の姿を温かく描く。

なぜか文庫化がスローペースな瀬尾まいこさん。
私が瀬尾さんの作品を読むのはこれがようやく2作目。
正直待ちくたびれちゃいましたよ…。


でもまぁ、待った甲斐はあった作品ですね。
ある日突然父さんをやめると言い出して、教員も辞めて大学を目指し受験勉強を始めた父さん。
父さんと一緒にいるのが苦しいと、家を出て行ってしまった母さん。
子どもの頃から天才で通してきたのに、大学に進まず農業の道を選んだ兄・直ちゃん。
こんなちょっと道を外し気味の家族の中でただ1人、自分だけはまともで普通の人生を歩みたいと願う佐和子。
一見バラバラの家族なのに、彼らが一緒に囲む食卓のシーンはなんだかとても優しい光に満ち溢れていて、幸福そうに思えました。
誰かと一緒に食事をするということは、人間にとってとても大切で、必要なことでもあるのだと思います。
食育の中では親と子どもが揃って食事をする重要さが説かれ、職場ではメンバーの結束を強めるために食事会(飲み会)が開かれる。
男と女が一緒に食事に行けば、特別な関係を噂される。
同じ食卓を囲むことは、人と人との結びつきを強めることにつながるのでしょう。
私はほぼ毎食必ず誰かと一緒に食事をしていて、1人きりで食事をするということはめったにありません。
普段なかなか意識することなどありませんが、誰かと一緒に食事をしながらくだらないことで笑い合ったり、同じものを食べて「おいしいね」と言い合ったり、時には少し真剣な話をしたりできることは、実はとても幸福なことなのかもしれないなと思いました。


最後の展開は全く予想していなかったのでちょっと面食らってしまいましたが、悲しいことはいつも突然目の前に降ってくるもの。
まともで普通の人生は、望んでも得られるものではないのかもしれません。
どんな人生でも、そこには山も谷もある。
でも、自分のことを知らないところでいつも守ってくれる人たちと共に食卓を囲む時間があれば、どんな悲しみも絶望もいつかは乗り越えていけるのだろうと、そんな希望を抱かせてくれる、さわやかな作品でした。
☆4つ。


ところで瀬尾まいこさん…、やっぱりミスチル好きなんでしょ!?