tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『チルドレン』伊坂幸太郎

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)


「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々――。何気ない日常に起こった5つの物語が、1つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。

いや〜、これは面白かった!
私が好きな日常の謎ミステリ風味の連作短編集という形式に加え、伊坂さんらしいユーモア、ビートルズの名曲、盲導犬(はい、私、盲導犬大好きなんです)といった魅力的な小道具が散りばめられているとあっては、夢中にならずにはいられませんでした。


主人公の陣内は、いつも騒がしくて屁理屈をこね回し、突飛な言動で周りの人間を惑わせるちょっと厄介な男。
でもむちゃくちゃなことを言っているようで妙な説得力があって、時々すごく真っ当な、いいことも言う、不思議な魅力を兼ね備えています。
そんな陣内が大学の友人・鴨居と共に入った銀行で銀行強盗に出くわし、盲導犬のベスを連れた全盲の青年・永瀬たちと共に人質になる事件を描いた「バンク」、それから12年後に家裁調査官となって非行少年たちの面接を行う陣内とその後輩・武藤の話「チルドレン」、銀行強盗事件の少し後の陣内の失恋事件を描いた「レトリーバー」、「チルドレン」から1年後の陣内と武藤が出会った少年と離婚調停中の夫婦の話「チルドレンII」、そして銀行強盗事件の1年後の永瀬と永瀬の恋人・優子の物語「イン」の5つの短編からこの作品は成り立っています。
どれもそれぞれに面白いのだけど、私のお気に入りは断然「チルドレンII」。
少しずつ張られていく伏線と、それによって最後に起こる「奇跡」。
よくまとまっていて、映画のように感動的な作品でした。
それからやっぱり盲導犬好きの私にとっては「レトリーバー」と「イン」で描かれている永瀬の盲導犬・ベスの賢さと可愛らしさが非常に魅力的でした。
目は見えなくとも、ベスと恋人の優子の存在をいつもそばに感じ、安らぎを得ている永瀬の「この特別ができるだけ長く続けばいいな」という願いが叶うことを心の底から祈りたくなるような、穏やかで優しい空気に満ちた2編で、読んでいて心が温かくなりました。


派手なドラマがあるような大傑作ではないけれど、伊坂さんの「巧さ」が存分に発揮された素晴らしい作品でした。
今まで私が読んだ伊坂作品(『陽気なギャングが地球を回す』『アヒルと鴨のコインロッカー』)の中では一番好きです。
☆5つ。