tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『水の迷宮』石持浅海

水の迷宮 (光文社文庫)

水の迷宮 (光文社文庫)


三年前、不慮の死を遂げた片山の命日に事件は起きた。首都圏の人気スポット・羽田国際環境水族館に届いた一通のメール。そして、展示生物を狙った攻撃が始まった。姿なき犯人の意図は何か?自衛策を講じる職員たちの努力を嘲笑うかのように、殺人事件が起きた!―すべての謎が解き明かされたとき、胸を打つ感動があなたを襲う。

最近注目の高いミステリ作家・石持浅海さんによる、水族館を舞台としたミステリ。
前作『月の扉』がなかなか面白かったということ以上に、水族館が舞台というのに強く惹かれて手に取りました。
動物園や水族館が大好きなもので。


そんな水族館好きの期待を裏切らない作品だと思います。
沖縄や東京湾、伊豆などさまざまな海を再現した水槽、水族館の人気者イルカのショー、飼育係をはじめとする館員たちの仕事ぶり。
水族館が好きなら興味を惹かれずにはいられない描写が次々に登場します。
冒頭から立て続けに事件が起こって、飼育係の古賀とその親友で探偵役の深澤の2人が繰り広げる謎解きも小気味よく分かりやすい説明で、非常にテンポよく物語が進みます。
また、登場人物たちが水族館内のあちこちへ動き回って場面展開がけっこう目まぐるしいのですが、細かな描写が行き届いているため、文章を追っているだけで映像が目の前に浮かんできます。
そんな感じでとても読みやすく、どんどんページをめくっていけます。
ラストも、多少うまく行き過ぎている感はあるものの、水族館ミステリにふさわしいさわやかな出来でした。
ただ、ミステリ的にはそれほど大きな仕掛けもなく、どんでん返しがあるわけでもないのでちょっと物足りないかな。
『月の扉』では犯人たちの動機につながっている部分の説得力が弱い感じがしたのですが、この作品でも『月の扉』ほどではないにしろ少々説得力不足の部分があるように思いました。
それでも、登場人物たちの海と海の生物たちへの深い愛情と、素晴らしい水族館を作りたいという情熱と大きな夢を描いた感動のドラマとして読めば、多少のミステリ的な弱さはそれほど気にはなりません。
こんな水族館に行ってみたいと読者に思わせた時点で、作者としてはこの作品は成功したと言えるのかもしれないなと思いました。
☆4つ。


それにしても、作中で語られる夢の水族館、いいなぁ。
旭山動物園の水族館版、みたいな。
…おっと、これ以上はネタばれになっちゃうか。
ぜひこの水族館を実際に作ってほしいです。
そうしたら絶対行くから!!