tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『Q&A』恩田陸

Q&A (幻冬舎文庫)

Q&A (幻冬舎文庫)


都下郊外の大型商業施設で重大死傷事故発生。死者69名、負傷者116名、未だ原因を特定できず――多数の被害者、目撃者の証言はことごとく食い違う。そもそも本当に事故だったのか?

久々に恩田陸さんの作品を読んでみました。
恩田さんは作品数が多すぎてどれから読むか非常に悩むのですが、この作品を読もうと思ったのは、「全編を通して質問とその答え(Q&A)のみで話が進んでいく」という構成に惹かれたからでした。
確か宮部みゆきさんの短編に似たようなのがあったなぁ、けっこう面白かったなぁ、と思って。
ですが恩田さんのこちらは長編。
本当に全部Q&Aだけで話を進められるのか?と思ったのですが、心配は無用でした。
さっすが恩田さん!
文句なしにうまい作家さんだなぁと思います。
多少くせはあるけど。


ある住宅地に建つ巨大ショッピングセンターである日起こった凄惨な大事故。
大勢の買い物客がエスカレーターからの転落や将棋倒しによる圧迫などで死傷するという甚大な被害を出し、当初は「何者かが毒を撒いた」「店内のどこかで火災が発生した」などといった理由により、客が一斉に避難しようとし、パニック状態に陥ったことが原因であると言われた。
しかし警察や消防の現場検証では毒物も火災跡も全く発見できず、重大な事件でありながら原因は特定できないまま。
この不可解な事件に関わった人たちへの質問と答えで物語は進んでいきます。
その過程で、当日ショッピングセンター内で起きていたいくつかの不思議な出来事が明らかになり、不審な人物も浮かび上がってきます。
最初はまるで警察の事情聴取を見ているような気分で読めるのですが、次第に話は意外な方向へ転がっていき、驚かされたり背筋に寒気が走ったり。


そう、この作品はとても「怖い」作品です。
それは、この作品に描かれている「事件」が、本当に起こってもおかしくないという気にさせられるからです。
我が家の近所にも、最近になって急に大型ショッピングセンターが増えました。
大きな施設は楽しくもあるけれど、「もしこの中のどこかで何かが起こったらどうなるのだろう」と無意識のうちに考えてしまうところが誰にでもあるのではないかと思います。
恩田さんはその不安や恐怖をそのままリアルに小説化しました。
「この事件の真相は何だったのか?」というこの作品における最大の質問に対しては、答えが明確に示されるわけではありません。
ですが、ほのめかされる真相は、これまた「ありうるかもしれない」と思わされ、それゆえに恐ろしく感じられるものでした。
オカルトホラーにはないリアリティあふれる恐怖感が味わえる、超一流のサスペンス小説だと思います。
ホラーは苦手なのですが、案外こういう種類の「怖さ」は好きかも…と、私の中の意外な好みに気付かせてくれた作品でした。
☆5つ。