tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『葉桜の季節に君を想うということ』歌野晶午

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)


「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命の出会いを果たして──。あらゆるミステリーの賞を総なめにした本作は、必ず二度、三度と読みたくなる究極の徹夜本です。

単行本時の評判を聞いて、文庫化を楽しみに待っていた本作。
発売日に買ってすぐ読みました。


ふむふむ、なるほど、こう来ましたか。
場所や時間の異なるいくつかの話が交互に語られるので、頭の弱い私は途中で混乱してしまったのですが、タネを明かされればなるほどです。
それまでバラバラだった物語がラストに至って、主人公の成瀬将虎が本文中で言っている通り「ジグソーパズルのピースがみるみるはまっていく」ように一つに収束して真の姿を浮かび上がらせる構成はお見事。
途中で引っかかるところがあり、「もしやこういうこと?」とふと思って、実はそれが正解に近かったのですが、それでも読み続けるうちに「う〜んやっぱり違うような…」と思わされたもんなぁ。
見事な騙しようでした。
はい、脱帽です。
これぞミステリの醍醐味ですね。
実は読んでいる間中ずっと主人公の成瀬がどうにも気に入らなくて、少々不快感さえ覚えていたのですが(だって冒頭からアレだし…)、真相が分かった途端、「…かっこいい!!」なんて思っちゃいました(笑)
最後のヒロインに対する言葉もすごくかっこいいと思います。
こんな生き方も悪くないかも、と思いました。
タイトルの「葉桜の季節に君を想うということ」もうまいですね。
ヒロインがもうちょっと魅力的だともっとよかったかも…とは思いますが、そこまでは求めすぎでしょうか。
ともあれ、非常に楽しめました。
☆5つ。


ところでAmazonのレビュー(単行本の方)を見てると、騙されて怒っている人がたくさんいるけど…なんで怒るの?
「こんな程度で騙されるか!!」というので怒るのなら分かるのだけど。
騙されるのは読者が持っている偏見や思い込みや先入観のせいだから読者自身の問題だし(常識にとらわれない柔軟な発想を持っている人ならばこの作品にも騙されることはないはず)、それを利用したミステリがフェアじゃないと言うのなら、ほとんどのミステリはフェアじゃないと思いますが。
ミステリを読む楽しみってそもそも騙されることにあるんじゃないのかなぁ。