tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『あかね色の風/ラブ・レター』あさのあつこ

あかね色の風/ラブ・レター (幻冬舎文庫)

あかね色の風/ラブ・レター (幻冬舎文庫)


陸上部で怪我をして自棄になっている遠子のクラスに転校生の千絵がやってきた。複雑な家庭の事情も屈託なく話す千絵に、遠子は不思議な魅力を感じる。二人の友情と成長を描いた「あかね色の風」。大好きなクラスメイトに手紙を出そうとする愛美の純粋な想いを綴った「ラブ・レター」。思春期の少女達の揺れる感情を照らし出す、青春小説の金字塔。

『バッテリー』の最終巻が先日文庫落ちしたばかりのあさのあつこさんですが、私は『バッテリー』の前にこちらの作品を読んでみることにしました。


思春期の入り口に立ち、これから少女から大人の女性への階段を上っていこうとしている、小学校高学年の女の子って、こんなに強くて瑞々しくってきらきらと輝いているんだ。
それが、「あかね色の風」と「ラブ・レター」という2つの中編作品に対する共通した感想です。
私にもこんな時代あったんだっけ?
…あったはずだよね。
しまった、「思春期」なんてその当時は自覚してなかったから、なんだかとても無駄に過ごしてしまった気がする(^_^;)


「あかね色の風」に登場するのは、少々反抗期気味の無愛想な遠子(とおこ)と、化石好きという渋い一面を持つ千絵という2人の少女。
近所に引っ越してきた千絵について、「かわいそうな子なんだから仲良くしてあげなさい」と母親に言われて反発を覚え、千絵にそっけなくしてしまう遠子の気持ち、分かるような気がします。
小学校低学年ならともかく、高学年ともなると、もう大人から「仲良くしなさい」と言われてもそうそう仲良くなれるとは限らないのですよね。
特に女の子の友達関係って、10歳を超えた頃からどんどん複雑になっていきますから。
母親だってそんな時代を経験して大人になってきたはずなのに、親になるとついついそんなこと忘れて…いや、自分の子どもはまだまだ子どもだと思って、「仲良くしなさい」って言っちゃうんですね。
実は私もちょっと忘れかけていました(笑)
この作品を読んで、久々に忘れていた小学校高学年時代の気持ちを思い出せたような気がします。
大人の女性が忘れてしまった少女時代のささやかなエピソードをしっかりとつかまえて、鮮やかに描き出すあさのさんはすごいなと思いました。


そして、「ラブ・レター」は隣の席の男の子が気になり始めた愛美(まなみ)のかわいい初恋物語
友達や好きな男の子に手紙を書くのが流行って、かわいいきれいなレターセットをお店に選びにいく少女たちの姿は、そのまま小学校高学年〜中学生時代の自分に重なりました。
手紙に交換日記に卒業前のサイン帳。
あの年頃の女の子たちって、なんであんなに文字を書くのが好きなんでしょうね?
好きな男の子に初めて手紙を書くことにした愛美は、宿題も忘れて日々の出来事や考えたことを手紙に書き留めていきます。
少したどたどしいけれど、素直でまっすぐな愛美の手紙はとてもいい手紙だなと思いました。
そして、それを受け取った男の子の反応がまた素晴らしい。
一生懸命手紙を書いた女の子の気持ちをちゃんと理解して、照れずにきちんと受け止め、自分も一生懸命に答えを返そうとする、そんな男の子を選ぶことのできた愛美は、きっと素敵な女性に成長するんだろうなと思って、なんだかとてもうれしくなってしまいました。


今まさに思春期の入り口に立っている女の子も、階段を上っている途中の少女も、もう上りきってしまった女性も、ぜひこの作品の少女たちの鮮やかな姿を目にしてほしいと思います。
もちろん、そんな少女たちや元少女たちに恋する、少年や元少年のみなさまにも。
☆4つ。