tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『幽霊人命救助隊』高野和明

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

幽霊人命救助隊 (文春文庫)


浪人生の高岡裕一は、奇妙な断崖の上で3人の男女に出会った。老ヤクザ、気弱な中年男、アンニュイな若い女。そこへ神が現れ、天国行きの条件に、自殺志願者100人の命を救えと命令する。裕一たちは自殺した幽霊だったのだ。地上に戻った彼らが繰り広げる怒涛の救助作戦。傑作エンタテインメント、遂に文庫化!

主人公は、それぞれさまざまな理由から自ら死を選んだ老若男女4人。
幽霊となった彼らが天国に行くために必要な条件として神が命じたのは、地上へ降りて7週間以内に100人の自殺志願者の命を救うこと。
かくして人命救助隊となった4人は、多くの自殺志願者たちを助けるうちに、自殺に至る原因を探り当て、自らが抱えていた悩みや問題に気付いてゆく…。


あらすじとしてはこんなお話。
かなりお堅く、重いテーマをはらみつつも、随所にちりばめられたユーモアのおかげで、面白く読みながら人の命や人生について考えることができるようになっています。
自殺に至る人間は高確率でうつ病にかかっており、うつ病は病院に行けば必ず治る、という論理は単純すぎるようにも思いましたが、必ず治ると信じることがうつ病患者には必要なのでしょうね。
日本は先進国の中でも自殺者の多い国だといわれます。
有名人の自殺も今までに数多くありましたが、自殺ほど聞いた者がつらい思いをさせられる死因はないと思います。
寿命や難病ならともかく、自殺の場合は、もしかしたら死なずにすむ方法もあったかもしれないと思わずにはいられないからです。
この作品中で、作者の高野和明さんは、日本人に自殺者が多い理由を、日本では伝統的に「自ら命を絶つ」ことを尊ぶ文化があるからではないかという一つの見方を提示しています。

人は皆、命を投げ出すという行為に崇高さを感じとってしまう。特に日本では、切腹した武士とか戦争中の特攻隊の話が語り継がれて、何かあれば死ねばいいという危うい風潮ができ上がってしまっている。だが、こんな短絡的な思考が他にあろうか。腹切りや自爆攻撃に人々を追い込んだ歴史や文化が反省されないまま、自殺行為だけが正当化されている。
(中略)
生き残っていたら彼らは英雄になれない。人々の涙を誘わないからだ。物事の是非を情で判断する人たちは、情の中に自分たちの命をも投げ出してしまう。軽い、と裕一は思った。たとえ歴史に名を残さなくとも、何があっても生き延びる人間のほうが崇高なはずなのに。


471ページ 5〜15行目

命を投げ出すことが美しいのではなく、最後まで必死に生きることの方が美しいという価値観が広まれば、少しは自殺件数を減らすことができるのでしょうか。
日本人が今まで命をどのように見て、どのように扱ってきたのか、私たちはもっと省みる必要があるのかもしれません。
☆4つ。