tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『幻夜』東野圭吾

幻夜 (集英社文庫 (ひ15-7))

幻夜 (集英社文庫 (ひ15-7))


幻の夜を行く男と女。息もつかせぬ傑作長編!
阪神淡路大震災の直後に、出会った男と女。男が犯した殺人を知る女は、彼を徹底的に利用し、野心を実現していく。だが彼女にも恐るべき秘密が―。名作『白夜行』の興奮が再び!

う〜む。
読後になんとも複雑な思いが残る作品ですね〜。
東野さんの作品は後味の悪いのが多いですが、この作品もその一つだと思います。


阪神淡路大震災直後の混乱の中、衝動的に殺人を犯してしまう水原雅也。
我に返ったとき、彼の背後に1人の女が立ち尽くしていた。
雅也の殺人を目撃したその女・新海美冬は、雅也を自分の「共犯者」に仕立て上げてゆく…。
美しく冷徹な「魔性の女」と、陰で暗躍する「共犯者」。
白夜行』における、雪穂と亮司の関係にほぼ同じように思われますが、大きく異なるのは雅也の位置づけです。
亮司は雪穂と同じ意思を持って日が射さぬ道を邁進する完璧な「共犯者」でしたが、雅也は美冬に心酔する、美冬にとって都合のよい男の1人でしかありません。
美冬と2人で幸せになりたい、ただそれだけの、ある意味純粋な愛だけで、美冬の悪魔的な企みに手を貸し、次々に罪を犯していく雅也。
終盤になってようやく美冬に疑惑を抱く雅也ですが、時はすでに遅し、彼は美冬に殺人を目撃された瞬間から、その魂を美冬に殺されていたのでした。


雪穂と亮司の繋がりを完全に隠して描かれた『白夜行』に対して、『幻夜』での美冬と雅也は二人で行動しているシーンも多く、雅也の方は心情描写にもかなりページが割かれています。
それゆえに、ちらちらと見え隠れする一組の男女の秘められた関係に想像力を膨らまされた『白夜行』の興奮が、『幻夜』ではなくなってしまっているのが残念といえば残念。
美冬の裏の顔についても、かなり具体的にはっきりと描かれています。
ですが、丹念に少しずつ張られる伏線と、丁寧かつ無駄のない描写で、『白夜行』同様十分に読ませます。
美冬の正体を断定的に書くのではなく、ヒントを断片的に散りばめることで読者に推理させるやり方もうまい。
できれば最後に美冬と彼女を追う刑事のガチンコ勝負を見てみたかったのでラストは少し肩透かしではありましたが、最後の1行に背筋がぞくりとしました。


変に叙情性に流されることなく、「魔性の女」に冷徹さを貫かせた東野さんに敬意を表して☆4つ。
なんとも後味が悪い終わり方なので、ぜひ続編で決着をつけてもらいたい気もしますが、これ以上エスカレートしていく美冬は見たくない気もして、複雑…。