tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『刺青白書』樋口有介

刺青(タトゥー)白書 (創元推理文庫)

刺青(タトゥー)白書 (創元推理文庫)


新人タレントの神崎あやが殺害され、彼女の同級生たちも次々と事件に巻き込まれる。女子大生、主婦、アイドル、それぞれに人生は気楽なはずだっが、薔薇の刺青が事件の発端になった。

柚木草平シリーズ第4弾にあたる、少々番外編的な趣が強い青春ミステリ。
長期連載漫画を読む喜びの一つは、作者の画力の向上を目の当たりにできることだと思いますが、同じことがこの小説作品にも言えるように思います。
シリーズ1作目から比べると、このシリーズ第4弾は確実に表現力も構成力も上がっています。
作者の着実な成長が見られてうれしい限りです。


さて、この第4作、どこが番外編的かというと、主人公が柚木草平ではない、というところでしょう。
本作の主人公は、どこか世間とずれたところのある女子大生、鈴女(すずめ)。
柚木草平が探偵役であることには変わりありませんが、今回初めて、柚木は3人称で客観的に描かれています。
今まで女性にモテるらしいということ以外に風貌などは謎のままだった柚木の外見について初めて触れられています。
…ふぅ〜ん、長髪で、ちょっと不良っぽい感じなのね…なるほど。
そんな柚木を少々胡散臭げに見る主人公スズメちゃんがなかなか可愛らしくて楽しいです。
ド近眼で、野暮ったい服ばかり着て、「散歩の達人」を自称する健脚の持ち主で、同級生にいじめられてもそうと気付かないほどぼんやりした妄想癖のあるスズメちゃん。
柚木が口説きたくなるタイプの女性には程遠いですが、すれたところがなくて真っ直ぐで不器用な女の子で、憎めないのです。
ところがそんなスズメちゃんが直面するのは、2人の中学時代の同級生の死。
しかもそれは、悲しく凄惨な殺人事件でした。
中学時代から6年の時を経て、それぞれ劇的な変化を遂げた元同級生たちの姿にとまどうスズメちゃんが最後に到達した事件の真相は、あまりにも酷く、醜く、悲しくて、なんとも言えない後味の悪い読後感を残します。
ですが、それだけに最後にスズメちゃんに訪れる小さな「奇跡」がさわやかで、救われる思いです。


柚木草平シリーズのファンとしては、いつものあの柚木と彼を取り巻く女性たち(別居中の奥さんや娘、元上司である不倫相手ら)との軽妙なやり取りが堪能できず、少々物足りない気もしますが、スズメちゃんの愛らしさでなんとかカバーできているのではないでしょうか。
最後に明らかになる真相もけっこう意外で、なかなか楽しめる番外編でした。
☆4つ。