tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『最悪』奥田英朗

最悪 (講談社文庫)

最悪 (講談社文庫)


不況にあえぐ鉄工所社長の川谷は、近隣との軋轢や、取引先の無理な頼みに頭を抱えていた。銀行員のみどりは、家庭の問題やセクハラに悩んでいた。和也は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られた。無縁だった三人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。比類なき犯罪小説、待望の文庫化。

いや〜、やっぱり奥田英朗さんの作品は面白いです!
『最悪』は奥田さんのデビュー2作目に当たる作品ですが、私は3作目の『邪魔』から先に読みました。
どちらの作品も、どんどん加速度をつけていく物語にぐいぐい引き込まれ、圧倒されてしまいました。


『最悪』では、小さな鉄工所を営む川谷信次郎、都銀に勤めるOLの藤崎みどり、パチンコやカツアゲでその日暮らしをする野村和也の3人の物語が同時進行します。
しばらくの間3人は接点を持たない赤の他人であり、それぞれの3つの物語は別々に進行してゆきますが、少しずつお互いが近づいてゆき、やがてある事件において1つに交わります。
この展開の仕方がとてもうまいなと思います。
初めは3つの物語がまったくばらばらなので、何が起こるのか、どのような関わりがあるのかが予想がつかず、物語の先行きが気になって仕方がありません。
そして、少しずつ見えてくる3人の「共通点」。
それは、この3人はみなそれぞれ自分の日常に不満を抱いているということでした。
世の中にある不条理や不公平や理不尽に苦しみ、この日常を変えたいと願った結果、小さな出来事が小さな不幸を呼び、それは積み重なって、やがて大きな不幸へと発展していきます。
まるでジェットコースターのように加速しながら急激に落下していく人生。
「人の不幸を楽しむなんて悪趣味だ」と言われるかもしれませんが、その急激な転落人生の物語が、面白くて仕方ないのです。
クライマックスの状況などはもうまさに「最悪」としか言いようのない状況で、登場人物たちの心情を想像すると胸が悪くなってくるぐらいなのですが(ただ、3人ともそれぞれに落ち度はあり、利己的な部分も多くて同情できない点も多いのですが)、それでも不思議に読後感は悪くありません。
人間、どんなに最悪な状況に追い込まれても、もしかしたらやり直せるかもしれない。
コツコツ真面目に頑張っていれば、どこかで救いの神が見てくれているかもしれない…。
そんな希望を持てるラストは、どこかすがすがしくさえあります。
600ページを越す長さの作品なのですが、読み終わってみればあっという間でした。
☆5つ。


ところで、作品自体には関係ないけれど、Amazonのレビューの中に池上冬樹さんによる解説を批判したものがありましたが、私も同意見です。
スラップスティックだのエポックメイキングだのアナーキーだの、やたらとカタカナ語ばかり並べ立ててどうすんの。
日本語の小説の解説なんだから日本語で解説して欲しいものです。