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『天狗風 霊験お初捕物控<二>』宮部みゆき

天狗風 霊験お初捕物控(二) (講談社文庫)

天狗風 霊験お初捕物控(二) (講談社文庫)


一陣の風が吹いたとき、嫁入り前の娘が次々と神隠しに――。
不思議な力をもつお初は、算学の道場に通う右京之介とともに、忽然と姿を消した娘たちの行方を追うことになった。ところが闇に響く謎の声や観音様の姿を借りたもののけに翻弄され、調べは難航する。『震える岩』につづく“霊験お初捕物控”第2弾。

何を隠そう「霊験お初捕物控」シリーズ第一弾である『震える岩』が、私が初めて読んだ宮部さんの時代小説でした。
ずっと時代小説が苦手だった私ですが、それから何作か宮部さんの時代小説を読んですっかり慣れて十分に楽しめるようになったので、第二弾である『天狗風』を読んでみることにしました。


時代小説といっても捕物帳ですからミステリ的な要素があり、それが私にとっては読みやすい一因であるかもしれません。
ただし今回は早めにネタ明かしがあるため、ミステリ的には少々弱い気がしました。
ですが、宮部さんの時代小説の面白さは、ミステリ部分よりは秀逸な人物描写の部分にあると思います(現代ものでもそうかもしれません)。
このシリーズのヒロイン・お初は、他の人には見えないものが見えたり、もののけの言葉が分かったりといった不思議な力を持っています。
宮部さんの作品にはよく超能力を持った人物が登場しますが、宮部さんは決して超能力を持っていることを「かっこいいこと」「素晴らしいこと」であるとは書きません。
むしろ、そのような人物はみな余計な力を持て余したり、自らの能力が生み出すものに苦しんだりしています。
お初も例外ではありません。
見たくないものまで見えてしまうお初ですが、恐ろしい思いもしながらも逃げ出したりはせずに、その力を人のために使おうと、健気に身辺で起こった奇怪な事件に取り組んでいきます。
その姿が凛々しくて、かっこよくて、彼女のパートナーである右京之介が言うように「誰よりも美しい」。
だからこそ読者も彼女に魅了されて、どんどん続きを読みたくなってしまいます。
そして、右京之介。
前作ではなんだか弱弱しくて頼りない印象だった彼が、今作では急に大人びて、男らしく成長しているように思いました。
もともと真面目で頭がよくて心優しい青年ですが、今回はその彼の長所が存分に発揮されています。
お初もそんな彼に一目置くようになったらしく、2人がなかなかいい雰囲気になる場面もあって、前作からのファンにはうれしい限りです。
お初のような勇ましさもなければ、与力の嫡男でありながら立ち回りも苦手な右京之介ですが、ラストでひとりで「天狗」と対峙するお初をその場にいなくても守り、天狗を破る力を与えるのが右京之介であるというのも、非常に心憎い。
お初と右京之介、とてもよいコンビだと思います。


もちろん、お初の兄・六蔵や、お初が兄嫁とともに切り盛りする一膳飯屋「姉妹屋」で働く人々、今回の事件で出会った町人たち、お初と右京之介を引き合わせた張本人である根岸肥前守鎮衛(「ねぎしひぜんのかみやすもり」…この人物だけは実在の人物です)もみな江戸の町に生き生きと暮らしていて魅力的だし、お初が今回の事件を解決する手助けをしてくれる3匹の謎の猫たちも可愛らしい。
彼らのおかげでにぎやかな江戸の町の暮らしが見えてくるかのような、楽しい物語でした。
☆4つ。
…で、宮部さん、続編はまだですか?(笑)