tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『鉄鼠の檻』京極夏彦

文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫)

文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫)


忽然と出現した修行僧の屍、山中駆ける振袖の童女、埋没した「経蔵」…。箱根に起きる奇怪な事象に魅入られた者―骨董屋・今川、老医師・久遠寺、作家・関口らの眼前で仏弟子たちが次々と無惨に殺されていく。謎の巨刹=明慧寺に封じ込められた動機と妄執に、さしもの京極堂が苦闘する、シリーズ第四弾。

上の書影は文庫版のものですが、私が読んだのは全4巻の分冊文庫版でした。
いや〜、さすがに1300ページもある文庫本は1冊じゃ読みにくいでしょ…。
あまりの分厚さに本屋で見て唖然としましたもの(^_^;)
分冊版ならいつものお気に入りのブックカバーにも入るし、何より持ち運びが楽なのでとても読みやすかったです。
無理してあの分厚いのに挑戦しなくてよかった…。
お金は多少余計にかかっちゃいましたが。


そんな感じで毎度毎度の大長編である京極堂シリーズ第4弾ですが、今回はわりあい早くに役者が一堂に揃うせいか、展開自体は間延びすることもなくスピーディーに感じました。
やっぱりこのシリーズはおなじみの登場人物が非常に面白いですね。
いつも機嫌の悪そうな京極堂こと中禅寺秋彦をはじめ、相変わらず暗い関口君や、超美形なのに破天荒な榎木津や、聡明でおてんばな京極堂の妹・敦子や、雑誌編集者のくせにことわざに弱い鳥口君や…。
あ、今回は木場修だけが名前だけしか出てこなかったかな?
ですが以前の事件で登場した人物が再登場したりして、シリーズの愛読者にはうれしいオールスターが集合した作品になっています。
ちなみに私は京極堂兄妹がセットで好きです。
面白さでいえば榎木津が一番ですけどね。
今回も榎木津はある意味マイペースに飛ばしていて笑わせてくれます。


けれどもこの『鉄鼠の檻』(「てっそのおり」と読みます。「てつねずみのおり」って入力しないと変換できない…)の一番の面白さは、日本では珍しい?本格的な宗教ミステリであるところでしょう。
しかも仏教を題材にしたミステリというのはかなり珍しいのではないでしょうか。
キリスト教を題材にしたミステリなら、大ヒットとなった『ダ・ヴィンチ・コード』をはじめ海外にはけっこう多くあるような気がします。
それはなぜかなと考えてみると、やはり日本人は欧米人がキリスト教に親しんでいるほどには仏教に親しんでいないからではないかなと思いました。
仏教と言っても宗派はいろいろあります。
この作品でメインで取り上げられているのは禅宗であり、かなりのページを割いて禅宗についての基本知識や歴史を説明しています。
私は寺の多い京都市内で生まれ、小学生時代は近所のお寺の日曜学校にも通っていましたが、そのお寺は浄土真宗だったため、この作品に描かれている禅宗の世界は私にはとても新鮮なものに感じられました。
京極堂シリーズではいつものことですが、この作品に書かれていたことの半分もちゃんと理解できたかどうか怪しい私です。
禅問答や「悟る」ということの意味についても、分かったような分からないような、もやもやとした状態のままです。
ですがそれでいいのでしょうね。
この本を1冊読んだくらいで禅が理解できるのなら、修行など必要ないのですから。
そういうことが分かっただけでも、私にとってこの作品は非常によい勉強となる、意義深い1冊でした。
というかやっぱり宗教の話には私はとても興味を惹かれますね。
特定の宗教に対する信仰を持たず、また持ちたいとも思いませんが、単純に文化として捉えると、宗教はとても興味深い知的好奇心の対象だと思います。
日本の文化や国民性を語る上で仏教や神道などの宗教は切っても切れない関係にあると思いますし、宗教に関する知識を得ることは、自分の、あるいは他の文化への理解をより深めてくれるように思います。


ラストの幕引きの仕方もとてもきれいでしたし、最初から最後までとても面白かったです。
でもやっぱりけっこう疲れたなぁ…。
何度でも繰り返し読みたい、とはあまり思えないので、☆5つとは言い辛いですね。
限りなく5に近い4、ということにしておきます。
宗教文化に興味がある人、薀蓄好きの人、BL好きの人(!?)などにおすすめします。