tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『嫁洗い池』芦原すなお

嫁洗い池 (創元推理文庫)

嫁洗い池 (創元推理文庫)


『ミミズクとオリーブ』に引き続き、作家とその妻、そして同郷の刑事が繰り広げる掛け合いの妙が、何とも言えない直木賞作家による安楽椅子探偵ものの第二弾。そして、郷土料理を中心に、本集でも読むだけで涎の出そうな料理や食材の数々が登場する。大根の雪花、イリコ、塩アンの丸餅、アラメ、ヒャッカ、豆腐の兄弟煮、関東炊き…。美食と推理の華麗な競演をお楽しみあれ。

安楽椅子探偵の奥さんと元ベストセラー作家のだんなさんが香川の郷土料理を食べながら、友人の河田警部が持ち込む厄介な事件を解決する『ミミズクとオリーブ』の続編です。
奥さんの料理の腕と鋭い推理も、だんなさんの抜け具合と観察力も、河田警部の大食漢ぶりも前作から変わらず。
相変わらずのおいしそうな料理の数々におなかを減らし(笑)、いちいちくだらない茶々を入れるだんなさんのユーモラスな話しぶりに思わず笑みがこぼれたりしながら、とても楽しく読みました。


いやしかし、前作のときから作家のだんなさんのことは浮世離れしていてちょっと変わった人だと思っていましたが、変わっているのは変わっているんですが、なんともお茶目と言うか、可愛らしいと言うか…。
あまり外に出ることのない箱入りお嬢様の奥さんが大学の同窓会に行くことになって、駅へ向かうタクシーを見送りながら「新幹線が脱線するかも」とか「同窓会場から誘拐されるかも」とか「泊まる旅館が火事になるかも」とかいちいち悪い想像をたくましくし、「今生の別れになるかも」などと心配して仕事も手につかなくなってしまうだんなさん…可愛いって!!(笑)
新婚さんでもないのにここまで心配してもらえるなんて、この奥さんは本当に幸せ者ですね。
実際、この作品は全編においてだんなさんの奥さんへの深い愛情が描かれていて、なんだかおのろけ話を延々と聞かされているような気分にもなってきます。
このだんなさんなら、きっと奥さんを誰かに紹介するときにも「愚妻です」なんて言わずに「愛妻です」なんて堂々と言っちゃいそうだなぁ。
いやはや、ごちそうさまです(笑)
もちろん奥さんのほうもちょっと頼りないところのあるだんなさんをうまく立ててアシストしていて、まさに良妻賢母(子どもはいないようですが)といった感じ。
素敵な夫婦です。
そんな奥さんとの関係だけじゃなくて、だんなさんは友人の河田警部との関係もなかなか面白い。
まるで漫才コンビのようなテンポのよい掛け合いは、関西に近い香川出身だからこそ、でしょうか。
特にプリクラの場面は爆笑ものでした。


そんな楽しいユーモアミステリである本作ですが、ミステリ的には謎がシンプルで分かりやすいこともあり、少々弱い感じがするのは否めません。
でもたぶんこのシリーズはこれでよいのです。
疲れているときでも気楽に読める良作。
☆4つ。