tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『浪花少年探偵団』東野圭吾

浪花少年探偵団 (講談社文庫)

浪花少年探偵団 (講談社文庫)


竹内しのぶ、25歳、独身、短大卒。大阪大路小学校6年5組担任の教師。ちょっと見は丸顔の美人だが、口も早いし手も早い。そのしのぶセンセのクラスの福島の父親が殺された。事件解決のためにしのぶセンセと教え子探偵団が大活躍。エリートの本間と刑事の新藤もしのぶをめぐって恋のさや当て大捜査戦。

実はこの作品、もう何ヶ月も積読になっていました。
やっと読めたよ…。
でももうちょっと早く読めばよかったなぁ、なんて思うほど面白かったです。


タイトルだけ見ると江戸川乱歩の「少年探偵団」を意識しているのか?とも思えますが、むしろ推理において活躍するのはヒロイン(…という言葉はあまり似合わない!?)の「しのぶセンセ」。
なぜかいつも事件に遭遇し、首を突っ込んでいくしのぶセンセはもちろん、教え子の悪ガキたちや、万年ヒラ刑事の漆崎と新藤の名(迷?)コンビ、脇役に至るまで、コテコテの大阪人たちがコテコテの大阪弁で事件を解決していくさまが、他のミステリにはない「ええ味」出してます。
メインの登場人物の中で唯一標準語を話す本間(…って変換しようとしたら、一番に「ホンマ」って出てきた大阪弁仕様のマイパソ…)にムカつく新藤には同じ大阪人として深い共感を覚えました(笑)
関西以外(特に東日本)の人にとっては大阪人がただ普通に会話しているだけで面白く感じたりするそうですが、見た目は可愛いのに中身は大阪のおばちゃん!?なしのぶセンセと他の人物たちとの掛け合いの面白さも大阪弁だからこそ、でしょう。


言葉の面白さはもちろん、大阪の下町ならではの人々の懐の深さもこの作品をいっそう面白くしています。
先生と警察官が屋台のたこ焼きを一緒につまんでいたり、警官が小学生の頭をしばいたり、先生が子どもに「アホか」と言ったりしても許されるのは日本、いや世界広しと言えども、大阪以外にはありえない!!
この「大阪の武器」を存分に生かした面白さは、大阪の下町出身の東野圭吾さんだからこそ書けたものだと思います。
もちろん東野さんの作品に限らず、小説を読んでいると、時々関西弁を話す人物が登場します。
ですが、作者が関西出身ではない場合、やっぱりどこかせりふ回しに違和感があるのです。
「この場面でこの言い回しはせぇへんで〜」と突っ込みを入れてしまうこともしばしば。
テレビのドラマ(特にサスペンスもの)でもよく大阪や京都が舞台になっているものがありますが、登場人物のアクセントに違和感を覚えることが多々あります。
「京都生まれ、京都育ちの生粋の京都人で、京都の老舗旅館で女将をやってるような人がなんで京都弁しゃべられへんねん!めっちゃ怪しいわ、あんたが犯人ちゃうんか」と、ストーリー以外のところで推理したくなってしまうようなこともしょっちゅう。
ネイティブスピーカー(笑)の俳優を揃えられないのなら、無理に舞台を関西にすることないのにね。
そういや東野圭吾さんの傑作『白夜行』のドラマ版でも、特に武田鉄矢さんの大阪弁がひどくて聞いていられなかった(私がこのドラマを見るのを途中でやめた理由の一つだったりします)。
武田さんは演技自体は鬼気迫る演技でネットでは非常に評判がよかったのですが、大阪人としてはあの「ニセ大阪人」っぷりは我慢できませんでした。
…おっと、なんだか話がそれてきましたが、方言はやはりその地元の人のものなのだなぁと思います。
地元人ではない人が真似をしても、どうしても真似以上のものにはならない。
本書『浪花少年探偵団』は「本物の」大阪人による大阪の物語だからこそ、面白いのだと思いました。


約20年前の作品なので、ミステリとしてのネタが少々古くて弱いのが残念ではありますが、それを吹き飛ばすほどの大阪の強力なパワーに満ちた作品で大満足でした。
☆5つ。
巻末の宮部みゆきさんによる解説もよかったです。
「しのぶセンセ=大人になったじゃりン子チエちゃん」説には私も大賛成。
続編も読まなきゃ。