tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ネジ式ザゼツキー』島田荘司

ネジ式ザゼツキー (講談社文庫)

ネジ式ザゼツキー (講談社文庫)


記憶に障害を持つ男エゴン・マーカットが書いた物語。そこには、蜜柑の樹の上の国、ネジ式の関節を持つ妖精、人工筋肉で羽ばたく飛行機などが描かれていた。御手洗潔がそのファンタジーを読んだ時、エゴンの過去と物語に隠された驚愕の真実が浮かびあがる!圧倒的スケールと複合的な謎の傑作長編ミステリー。

島田荘司さんの御手洗潔シリーズを久々に読んでみたら、あまりの変わりように驚きました。
どういう順番で読んだらいいのかよく分からなかったし、他にたくさん読みたい本があったので、短編を何冊かと長編は『占星術殺人事件』『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』までしか読んでいなかったんですよね。
そんな状態でいきなりわりと最近の作品であるこの『ネジ式ザゼツキー』を読んでみたら、御手洗はいつの間にやらスウェーデンに住んでるし、私立探偵を辞めて脳科学者になってるし、人間嫌いはいつの間にか直っている(?)ようだし、奇妙な言動もしないし…。
何より愛すべき御手洗の相棒、石岡君はどこへ行ったの〜!?
まるでタイムマシーンに乗っていきなり10年くらい未来へ行ってしまったかのよう(実際作品世界の中ではそれくらいの時間が経ってるわけですよね…いや、もっとかな?)。
wikipediaを見てみたら、こんな具合↓になっちゃってるんですね。

シリーズが進むにつれてどんどん設定が増えてゆき、現在ではIQは300以上とされ、地球上の殆どの言語をネイティブなみに話し、専門は脳科学だが、その他にも心理学や遺伝子工学、気象学、天文学、歴史学に外科医学など経済学以外の学問殆ど全てに通じるという、些か大掛かりな人物像となっている。


御手洗潔 - Wikipedia

ええ〜、どんな人間だよ(汗)
でもさすがはシマソウ、こういうところが好きなんです(笑)


今回の「ネタ」は「失われた記憶」。
こういう失われた記憶をたどっていくと思わぬ真相が!という話は好きですね。
同じ島田さんの『異邦の騎士』はもちろん、宮部みゆきさんの『レベル7』とか東野圭吾さんの『むかし僕が死んだ家』とか。
本作も、記憶障害の男が書いた不思議な物語の中に隠されたその男の過去とある事件の真相が、御手洗によって少しずつ明らかにされていく過程を楽しませてくれます。
この記憶障害の男が書いた物語というのがよくできていますね。
現実に起きた事件とうまくリンクしていて伏線が巧妙に張られているのはもちろん、ファンタジーとしてもなかなか面白いと思いました。
島田さんの豊かな想像力の賜物でしょうね。
また、ネタばれとなるのであまり詳しくは書けませんが、東洋と西洋の関係や、世界の情勢のことや、文化や歴史のことなどが、事件にうまく絡めて書かれていて、とても興味深く読みました。
しかし舞台が外国のせいか、文章が翻訳調になっているのがちょっと読みにくかったです。
好みの問題でしょうけど、私はあまり翻訳調の文体は好きではないんですよね。
普通日本語の日常会話では「これら」とか「それら」なんていう代名詞はあまり使わないでしょ。
だから違和感が拭えないんですよね。
登場人物が外国人でも、会話が外国語でなされているという設定でも、文体を外国語(欧米語)調にする必要は特にないと個人的には思うので…。
しかも途中で登場人物の会話がすべて英語で書かれている箇所があるんですが(しかも日本語訳はない)、これも私は英語にする必要をあまり感じなかったのですが…。
それほど難しい英語ではないし、私は辞書なしで読めましたけど(仮にも翻訳を勉強している人間が読めなかったら問題ですが)、英語は大の苦手だけどシマソウミステリは大好き!っていう読者は辞書と首っ引きで必死で読むんでしょうか?
和製ミステリなのに語学力がないせいで十二分に作品を楽しめないという読者がいるのであれば、それは少しアンフェアじゃないかなという気がします。
…とは言いつつ、私はとても楽しんだので☆は4つです(笑)