tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『永遠。』村山由佳

永遠。 (講談社文庫)

永遠。 (講談社文庫)


生きることに無器用なひとなのね。それが私にはいとしかった―葉月さんは亡くなる前、娘の弥生と幼なじみの僕に話してくれた。かつて別れた恋人のことを。弥生はその男の向かいの部屋に住み、彼の講義を聴きに短大に通った。「お父さん」と、一度も告げられずに。卒業式の日、僕は弥生の帰りを待つ―。

村山由佳さんは好きな作家さんの一人ですが、最近あんまり読んでいないような?
あ、今年初めに『星々の舟』読んだっけ…。
でも、とても久々に村山さんの切ない恋愛小説を読めたような気がして、なんだかとてもうれしかったのです。


この作品は堤真一さんと内山理名さん主演の映画「卒業」とのコラボレーションで、雑誌「FRaU」に付録として付けられた小説なんですね。
そういう背景知識を何も持たずに読んだのですが、映画のことをまったく知らなくてもこの作品は十分に楽しめると思います。
友達以上、恋人未満の幼なじみの微妙な関係。
親子であると名乗りあうこともかなわぬ、切ない親子関係。
こういったものを書かせると村山由佳さんは本当にうまいですね。
とてもとても短い作品なのに、その短い物語の中で何度か切なさで胸がいっぱいになってしまいました。
それは人間関係の描写が優れているだけでなく、情景描写のうまさが大きく影響していると思います。
以前にも村山作品の感想の中で書いたのですが、村山さんの文章には鮮やかな色があります。
自然のにおいがします。
雨音や誰かの靴音、雪がしんしんと降り積もる音など、静かで優しい音が聞こえます。
この短い物語の中にも、それらがすべて、ちゃんと書き込まれていました。
池上冬樹さんの解説によると、村山さんが小説を書くときは、頭の中にまず映像が思い浮かんで、それにじっと神経を集中させてから文章にしていくのだそうです。
本書に限らず村山さんの小説を1作でも読んでみれば、きっとこのことが非常に納得のいくことと感じられるでしょう。
天使の卵」など村山作品の映像化が相次いでいますが、村山さんと映像作品という組み合わせはなかなか相性がよいかもしれないなと思います。


短い中に、村山作品が持つ魅力のエッセンスをぎゅっと凝縮したかのような1冊でした。
☆4つ。
文庫版あとがきには、不謹慎ながらも思わず笑ってしまいました…(村山さんごめんなさい!)