tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『世界の終わり、あるいは始まり』歌野晶午

世界の終わり、あるいは始まり (角川文庫)

世界の終わり、あるいは始まり (角川文庫)


東京近郊で連続する誘拐殺人事件。誘拐された子供はみな、身代金の受け渡しの前に銃で殺害されており、その残虐な手口で世間を騒がせていた。そんな中、富樫修は小学六年生の息子・雄介の部屋から被害者の父親の名刺を発見してしまう。息子が誘拐事件に関わりを持っているのではないか?恐るべき疑惑はやがて確信へと変わり…。既存のミステリの枠を超越した、崩壊と再生を描く衝撃の問題作。

少年犯罪を題材にした小説は多々ありますが、この作品はその中でも異色の部類に入るのではないでしょうか。
ミステリの枠に当てはめてしまってよいものかどうか少々悩むところですが、先が気になってどんどん読み進んでしまいました。


この作品は三部構成になっています。
第一部は連続男児誘拐殺害事件の発生について語られ、第二部では小学6年の息子を持つ父親が、息子の部屋で息子の事件への関与を示唆する証拠品を見つけ、次第に息子が犯人であるという確信を持つに至る過程が語られ、そして最後の第三部では、息子が重大犯罪を犯したのではないかと疑惑を抱く父親が、その後どのような行動を取るかが語られます。
この第三部がこの作品全体の肝となっていて、第三部の展開については何を書いてもネタばれになりそうなのでこれ以上は書きませんが、わが子が犯罪を犯してしまったのではないかという疑惑と、自分はその父親としてどうするべきなのかという苦悩に翻弄される父親の姿がまざまざと描き出されます。
たぶん、世の中のほとんどの親は、少年犯罪を対岸の火事と考えているでしょう。
被害者になることは心配したとしても、自分の子どもが加害者になるかもしれないとはあまり考えない、いや、考えたくないのではないでしょうか。
ですが実際にわが子が重大犯罪を犯したかもしれない痕跡を発見してしまったら?
子どもを問い詰める?
誰かに相談する?
証拠隠滅を図る?
何も見なかったことにして、密かに疑惑を抱えたまま生きていく?
正直に警察に通報する?
未来に絶望して、一家心中する?
さまざまな選択肢が考えられる中、あなたならどれを選ぶ?というこの重い問いかけは、本作品の主人公の父親ではなく、この作品を読んでいる読者にこそ向けられているのでしょう。
そしてその選んだ選択肢は、世界の終わりにつながっているのか、はたまた始まりにつながっているのか。
それを想像しながら読むと、リアリティのある恐怖感が足元から這い上がってきます。
上手い展開の仕方だな、と思いつつも、それだけに結末は少々消化不良気味な印象がぬぐえませんでした。
それでも、本格ミステリだと思って読むと期待外れですが、一度は読んでみて損はない作品だと思います。
☆4つ。