tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『天国はまだ遠く』瀬尾まいこ

天国はまだ遠く (新潮文庫)

天国はまだ遠く (新潮文庫)


誰も私を知らない遠い場所へ―そして、そこで終わりにする。…はずだったけど、たどり着いた山奥の民宿で、自分の中の何かが変わった。あなたの心にじんわりしみる気鋭の作家の最新長篇。

瀬尾まいこさんの作品がようやく文庫化。
人気のある作家さんだと思うのに、なぜこんなに文庫化に時間がかかってるんだろう?
まぁ『幸福な食卓』が映画化するし(それに続いてこの『天国はまだ遠く』も映画化するんですってね)、これから徐々に文庫落ちしてくれるかな…。


さて、この作品は、都会での会社員生活に疲れきった23歳のOL、千鶴が、自殺するために京都府北部・丹後の村へ向かい、そこで泊まった民宿の主・田村さんと出会い、彼と共に丹後の自然の中で生活するうちに心癒されていく…というストーリーです。
作者の瀬尾まいこさんの本職は公立中学校の国語の先生で、現在は丹後のとある中学に勤務されています。
そんな瀬尾さんの、丹後の地とそこに住む人々への愛情が存分に込められているのが本書だと思います。
私も小学生時代を京都市内で過ごしたので、田植えや稲刈りの体験教室などで何度か丹後に行ったことがあります。
この作品の中で千鶴が体験するように、舞鶴の漁師さんの小さな船に乗せてもらって早朝の漁に連れて行ってもらったこともあります。
この作品を読めばよく分かるように、丹後って本当にいいところだと思います。
食べ物はおいしいし(作中で田村さんも言っていますが、舞鶴のいかは本当においしいです!)、自然はいっぱいだし、海も山も両方あるし。
千鶴が丹後での生活に浸り、離れたくないと思ってしまうのもよく分かります。
けれども、やはり丹後の地で自分は「よそ者」であると感じてしまうのも、同じくらいよく分かる気がします。
丹後の地域社会が閉鎖的だとかそういう意味ではなくて。
都会に生まれ、都会に育った者にとって、やはり丹後のような「田舎」は訪れる場所であって、帰る場所ではないんですよね。
海を見るのは好きだけれども船に乗るのは嫌いだったり、動物が苦手だったりする都会っ子の千鶴は、本人も自覚するとおり、丹後に根を下ろして生活している田村さんとは決定的に違う、「お客さん」でしかありえないのです。
少し悲しい気もしますが、自分の生きる場所はどこなのか、何をして生きていくのかをきちんと自覚することが重要で、それが都会なのか田舎なのかは問題ではないのかもしれません。


いきなり主人公の千鶴が自殺しようとしているので少し重い話になるのかと思いきや、千鶴ののほほんとした性格のせいか、それほど暗い話にならず、のほほんと心地よい空気の流れている作品です。
私にとっては、私自身の丹後での体験を重ね合わせて読めたし、20代前半の頃の仕事の大変さも千鶴とよく似た状況だったのでとても共感できたし、高校(ミッション系)時代に学校の礼拝でよく歌った賛美歌が登場して懐かしくて思わず口ずさんでしまったりもして、なんだか懐かしさのツボを押されまくりの作品でした。
☆4つ。


ところで作品中にミスチルが出てきますが、瀬尾さんってもしかしてミスチルファン?
そういや映画「幸福な食卓」の主題歌はミスチルなんですよね…。
ここはぜひ『天国はまだ遠く』の映画の主題歌もぜひミスチルで(笑)!